( 水湊SIDE )
◇ ◇ ◇
10月に入って、少しずつ涼しくなってきた。
それでも昼間はさすがにまだ暑いけど。
その点、商業施設の中はいいね。
いつでも空調がきいててすこし肌寒いくらいだし。
今日は、突然映画が見たいと言い出した凛久ちゃんとデート。
行先はショッピングモールの最上階にあるシネマ。
半袖ミスったかな。
ちょっとだけ寒い。
「楽しみだなー」
となりでニコニコ。
俺の手を握って浮かれている凛久ちゃん。
…かわいい。
間違いなく、俺の彼女がいちばんかわいいって、世界中に言って回りたいくらい。
「恋愛だけど本当によかったの? 水湊くん」
俺の名前を呼ぶ声。
そうやって心配そうに見上げる瞳。
華奢な体。
サラサラの髪の毛。
…全部好き。
「いいよ。凛久ちゃんが見たかったんでしょ?」
「うん! あたしが大好きな少女漫画の実写化でね、それでね」
俺が聞くと、嬉しそうに作品のあらすじを語ってくれた。
楽しみにしてたんだね。
…でもさ、今ここにいるのって、俺である必要はあったのかな?