「…んっ、…ふ」
サッと血の気が引いていく。
…あー、もう、なんでだよ。
俺、マジで当て馬気質?
最悪だな、本気で。
聞きたくない声。
でも、怖いもの見たさに角から顔を出して覗いてしまう。
…こんな住宅街で、やめろよ。
夜とはいえど。
あれはどう見たって、凛久とミナトだ。
……見たくなかったよな。
凛久が他の男とキスしてるところなんて。
あー。
俺も飯ついていっとけばよかった。
タイミング、悪。
アイツ、彼氏の前だとあんな顔すんだ。
…あんな風に、キスするんだ。
俺なんて今日、ビンタされたのにな。
なんで俺、隠れて好きな女のキスシーン見守ってんだ。
本当の負け犬じゃん。…だる。
「凛久ちゃん、大好きだよ」
「…ん、あたしも」
凛久は名残惜しそうに家に入っていく。
なんかな。
わかんねーけど。
涙も、出ない。
…俺のほうが、好きだから。
俺は地面にしゃがみこんで、しばらくその場から動けなかった。