もう、中で何が行われてるかなんて気にならなかった。
あたし、目の前の夏向に精いっぱいで。
……何回目の、キス?
付き合ってないのに、こんなのよくない。
あたしと夏向は友達でしょ…?
耳から消えかけていた雨音が、やけにうるさく聞こえた。
まるであたしの心みたい。
「…りく」
そんな声で、あたしの名前を呼ばないで。
夏向があたしを好きだって言うのも、変だよ。
ホントは嘘、なんだよね?
……ね、夏向。
信じたくないよ…。
「…かな、た」
雨音に紛れて、小さな声で名前を呼んだ。
きっと傷つける。でも、譲れない。
「…あたし、夏向とは付き合えない…」
なんでそんなに切ない顔して笑うの。
怒ってよ。
嘘ってことにすんなって、怒って。
最低なあたしを、叱ってほしいの。
「…ん。返事くれて、ありがと」
ありがとう、は、変だよ。
……夏向。ごめん。
間違いに気づけるかな、あたし。
今はこの決断を正しいと思ってる。
それでも、待っててくれる?
ーーその日は、明け方まで雨が降っていた。



