「カナー、綾野さんが呼んでる」
その声に反応した夏向の振り向き速度。
一秒とかいう次元じゃない。たぶん、小数点の世界。
「おー」と軽めに返事をして、夏向は行ってしまった。
教室のドアの前。
体の後ろで手を組んで夏向の到着を待つ、華奢な女の子。
モカグレージュの薄めの髪色、今日は下のほうで二つ結びにされたセミロングの髪。
……眼鏡かけてる。
綾野さんって、目悪かったんだ。
いつもはコンタクト?
今日は寝坊したのかな。
どれもあたしには関係ないことなのに、かわいらしく上目遣いをして夏向と楽し気に話す綾野さんから目が離せなくなっていた。
「そんな気になるんなら、行かないでって止めればよかったのに」
「……えっ!?」