翌日、教室に入ってみると青山君の姿が有りません。 「どうしたんだろう?」
優紀は帰り際のことを思い出した。
「俺が居なかったら勝つことは出来ないんだ。 居ても勝てるかどうか分からないけど。 だからさ、俺が逃げるわけにはいかないんだ。」
痛みを我慢しながら懸命に話してくれる彼に何かを感じている。 それが何かは分からないけど、、、。
(もしも青山君が試合に出れなくなったら、、、。) そんなことを考えると急に泣きたくなってきた。
そこへいつものように賑やかなクラスメートたちがドドドっと入ってきました。 「おはよう!」
「おやおや? 彼氏が居なくてしょんぼりしてるのかなあ?」 「山下君 揶揄うのはやめなさい。」
「だってさあ、こいつ 青山に惚れてるんだぜ。」 「そんなこと無いわよ。」
懸命に否定する優紀ですが、、、。
そこへクラス担任が入ってきて沈痛な面持ちで話し始めました。
「青山君ですが、昨日、商店街で喧嘩に巻き込まれたことが分かりました。 ケガもしているので十日ほど休むように言いましたから。」
「えーーーーーー? あいつが?」 「何でまた?」
「詳しいことは言えません。 ですから皆さんも彼を刺激しないように。」 優紀は、、、。
その日は一日中元気が無くて悟たちが声を掛けても返事すらしません。
部活でも元気が無くて名志田先生も心配しているようです。
「おいおい、マネージャーがそれじゃあ困るなあ。」 「吉田、青山はそれだけ影響力が大きいんだ。 今はそっとしてやれ。」
部員たちの練習はいつも通り。 川原田も今日はやけに張り切ってます。
「青山の分もやってやろうぜ!」 「お前が頑張れ。」
「アホか、お前もやるんだよ。」 「俺はやってるよ。」
「こらこら、青山の分もお前たちに掛かってるんだぞ。 気合を入れろ!」
監督の泉先生もメガホンを持って懸命に指揮を執っています。
優紀はそれを見ながらまた涙ぐんでしまいました。
当の青山はというと、、、。
家出休んではいますが、午前中に警察官が事情聴取に訪れています。 「相手のことは知っていますか?」
「はい。 ぼくが以前通っていた高校の2年生です。」
「あなたが絡まれた理由は?」 「はっきりとは分かりません。 でも今の高校に転校したことだと思います。」
「転校したこと?」 「以前の高校より野球部が弱いんです。 それで、、、。」
警察官はメモを取りながら不思議そうな顔をした。 「弱い高校に転校して殴られた、、、か。」
「しかしまあ、これで傷害事件として捜査することは出来ます。 新しい情報が入ったらぜひ知らせてください。」 「分かりました。」
寮の管理者も心配そうである。 「よくこれだけで済んだもんだ。」
ところが安心したのもつかの間、、、。 青山宛に脅迫状が、、、。
『お前が地区大会に出るなら妹はどうなっても知らねえぞ。
妹を助けた買ったら地区大会には出ずにおとなしくしてるんだな。』
脅迫状はパソコンで書かれた物らしく、それだけでは誰が書いたのか分かりません。 「困ったな、、、。」
そう、青山には葵という6年生になる妹が居ます。 しかも足が不自由でいつも彼が寄り添っていた妹です。
「葵が何かされたら大変だ。 でも地区大会は俺が居ないと勝てない。」 部屋の中で葵の写真を見ながら彼は考え込みました。
壁には妹が書いたという絵が掛けられています。 ユニフォームを着ている彼の絵です。
「兄ちゃんはすごいんだ。 あんなに速い球を投げるなんて、、、。」 葵はいつもグローブを自慢そうに見詰めていました。
そんな妹がもしも殺されるようなことになれば、、、。 そう思う時が気ではないのです。
そこへ寮の管理人が入ってきました。 「おー、青山君。 ケガの具合はどうだ?」
「だいぶいいですよ。 まだまだ痛いけど。」 「そうか。 それで脅迫状のことなんだが、、、。」
「相手は分かりません。 だれが何のためにやってるのかも。」 「そうか。 君でも分からんか。」
「何か有ったんですか?」 「実は、君の自作自演だって電話が掛かってきたんだよ。」
「電話?」 「そう。 名前も言わずに切れたんだ。 心当たりは無いか?」
「うーーーーーーん。」 彼は考え込んでしまいました。
その夜も優紀はじっとして居られずに布団に入ってもゴロゴロしています。 (もしも青山君に何か有ったら、、、?)
考えても無駄なことだって分かってはいるけれど、どうしても考えてしまう。 青山は野球部のエースだから。
クラスの誰かが言っていた。 「優紀さあ、青山に惚れてるんだよ。 だから心配してるんだろう?」
「は? 惚れようが惚れまいが心配するだろう。 アホ。」 「アホとは何だ、アホとは。」
「アホとはお前のことだ。 それ以外に無い。」 「二人ともやめてくれ。 喧嘩してる場合じゃないだろう?」
「それもそうだ。 なあ、アホ。」 「だから、、、、。」
(私って青山君に惚れてるのかな? そんなんじゃないよね? クラスメートだし、キャプテンだし、それだけだよね?) 何度も自問自答を繰り返す優紀ですが、、、。
翌日も青山君は寮でひっそりとしています。 「ケガも折れたんじゃなかったんだな。 罅くらいなら2週間も有れば動けるぞ。」
グローブを見詰めながら殴りかかってきた連中のことを思い出そうとしますが、、、。
「一人は確かに平井孝弘だ。 でも後のやつらは、、、?」 見たことが有るような無いような、、、。
でも平井孝弘は2年生。 では残りは新入生か?
スマホに残していた電話帳を開いてみる。 でも分からない。
ということは先輩か? 有り得ないことではなさそうだけど、、、。
「青山君、お客さんが来てるよ。」 管理人が呼びに来ました。
(誰だろう?)と思って玄関に行ってみると、立っていたのは優紀でした。
「青山君、大丈夫?」 「授業は? さぼったのか?」
「それは、、、。」 「心配は要らない。 授業を抜け出すんじゃない。 戻るんだ。」
「でも、、、。」 「心配するな。 罅が入ってるだけだった。 すぐに動けるようになるから。」
「それでほんとに大丈夫なの?」 「みんなを心配させるんじゃないよ。 俺のことはいいから。」
それだけ言うと青山君は優紀に背を向けました。
優紀はただただ、立ち竦むしかありません。 「名志田先生とみんなによろしくな。」
「あ、、、。」 「そうだ、もうすぐ試験だろう? 理科のノート頼んだよ。」
「は、はい。」 優紀はなんとなくまたまたキュンとしてしまった。
それから三日ほどして金曜日。 「青山君に郵便物が来てるよ。」
洗濯物を干していた彼の所へ管理人が大きめの封筒を持ってきました。
「何だろう?」 「dvdか何かみたいだね。」
開けてみると確かにdvdが入っていました。 「何のdvdなんだろう?」
不思議な気持ちで再生してみると、、、。
「お兄ちゃん 試合にはきっと出てね!」 「うるせえ! 余計なことを喋るんじゃねえよ!」
「キャーーーーーー!」 何処かの暗い部屋のようです。
「葵だ、、、。 葵が攫われたんだ。」 画面には縛られて殴られ続ける葵の姿が、、、。
「あんちきしょう、、、ついにやりやがったか。」 忌々しいあの連中の顔が浮かんできます。
でも、その暗い部屋が何処なのか見当が付きません。 「場所さえ分かればいいんだけど、、、。」
「青山、俺たちの言うことを聞かないんなら妹は殺すからな。 三日だけ時間をやる。 試合に出るか出ないか、返事をしろ。」
その一瞬、見覚えの有る校旗が見えました。 「そうか。 体育倉庫だ。」
「何だって? 妹さんが誘拐されてるって?」 「そうです。 場所はぼくが居たあの高校の体育倉庫です。」
「何でそんなことが分かったんだ?」 「旗が見えたんですよ。 それで、、、。」
青山君はそれだけ言うと寮を飛び出していった。
優紀は帰り際のことを思い出した。
「俺が居なかったら勝つことは出来ないんだ。 居ても勝てるかどうか分からないけど。 だからさ、俺が逃げるわけにはいかないんだ。」
痛みを我慢しながら懸命に話してくれる彼に何かを感じている。 それが何かは分からないけど、、、。
(もしも青山君が試合に出れなくなったら、、、。) そんなことを考えると急に泣きたくなってきた。
そこへいつものように賑やかなクラスメートたちがドドドっと入ってきました。 「おはよう!」
「おやおや? 彼氏が居なくてしょんぼりしてるのかなあ?」 「山下君 揶揄うのはやめなさい。」
「だってさあ、こいつ 青山に惚れてるんだぜ。」 「そんなこと無いわよ。」
懸命に否定する優紀ですが、、、。
そこへクラス担任が入ってきて沈痛な面持ちで話し始めました。
「青山君ですが、昨日、商店街で喧嘩に巻き込まれたことが分かりました。 ケガもしているので十日ほど休むように言いましたから。」
「えーーーーーー? あいつが?」 「何でまた?」
「詳しいことは言えません。 ですから皆さんも彼を刺激しないように。」 優紀は、、、。
その日は一日中元気が無くて悟たちが声を掛けても返事すらしません。
部活でも元気が無くて名志田先生も心配しているようです。
「おいおい、マネージャーがそれじゃあ困るなあ。」 「吉田、青山はそれだけ影響力が大きいんだ。 今はそっとしてやれ。」
部員たちの練習はいつも通り。 川原田も今日はやけに張り切ってます。
「青山の分もやってやろうぜ!」 「お前が頑張れ。」
「アホか、お前もやるんだよ。」 「俺はやってるよ。」
「こらこら、青山の分もお前たちに掛かってるんだぞ。 気合を入れろ!」
監督の泉先生もメガホンを持って懸命に指揮を執っています。
優紀はそれを見ながらまた涙ぐんでしまいました。
当の青山はというと、、、。
家出休んではいますが、午前中に警察官が事情聴取に訪れています。 「相手のことは知っていますか?」
「はい。 ぼくが以前通っていた高校の2年生です。」
「あなたが絡まれた理由は?」 「はっきりとは分かりません。 でも今の高校に転校したことだと思います。」
「転校したこと?」 「以前の高校より野球部が弱いんです。 それで、、、。」
警察官はメモを取りながら不思議そうな顔をした。 「弱い高校に転校して殴られた、、、か。」
「しかしまあ、これで傷害事件として捜査することは出来ます。 新しい情報が入ったらぜひ知らせてください。」 「分かりました。」
寮の管理者も心配そうである。 「よくこれだけで済んだもんだ。」
ところが安心したのもつかの間、、、。 青山宛に脅迫状が、、、。
『お前が地区大会に出るなら妹はどうなっても知らねえぞ。
妹を助けた買ったら地区大会には出ずにおとなしくしてるんだな。』
脅迫状はパソコンで書かれた物らしく、それだけでは誰が書いたのか分かりません。 「困ったな、、、。」
そう、青山には葵という6年生になる妹が居ます。 しかも足が不自由でいつも彼が寄り添っていた妹です。
「葵が何かされたら大変だ。 でも地区大会は俺が居ないと勝てない。」 部屋の中で葵の写真を見ながら彼は考え込みました。
壁には妹が書いたという絵が掛けられています。 ユニフォームを着ている彼の絵です。
「兄ちゃんはすごいんだ。 あんなに速い球を投げるなんて、、、。」 葵はいつもグローブを自慢そうに見詰めていました。
そんな妹がもしも殺されるようなことになれば、、、。 そう思う時が気ではないのです。
そこへ寮の管理人が入ってきました。 「おー、青山君。 ケガの具合はどうだ?」
「だいぶいいですよ。 まだまだ痛いけど。」 「そうか。 それで脅迫状のことなんだが、、、。」
「相手は分かりません。 だれが何のためにやってるのかも。」 「そうか。 君でも分からんか。」
「何か有ったんですか?」 「実は、君の自作自演だって電話が掛かってきたんだよ。」
「電話?」 「そう。 名前も言わずに切れたんだ。 心当たりは無いか?」
「うーーーーーーん。」 彼は考え込んでしまいました。
その夜も優紀はじっとして居られずに布団に入ってもゴロゴロしています。 (もしも青山君に何か有ったら、、、?)
考えても無駄なことだって分かってはいるけれど、どうしても考えてしまう。 青山は野球部のエースだから。
クラスの誰かが言っていた。 「優紀さあ、青山に惚れてるんだよ。 だから心配してるんだろう?」
「は? 惚れようが惚れまいが心配するだろう。 アホ。」 「アホとは何だ、アホとは。」
「アホとはお前のことだ。 それ以外に無い。」 「二人ともやめてくれ。 喧嘩してる場合じゃないだろう?」
「それもそうだ。 なあ、アホ。」 「だから、、、、。」
(私って青山君に惚れてるのかな? そんなんじゃないよね? クラスメートだし、キャプテンだし、それだけだよね?) 何度も自問自答を繰り返す優紀ですが、、、。
翌日も青山君は寮でひっそりとしています。 「ケガも折れたんじゃなかったんだな。 罅くらいなら2週間も有れば動けるぞ。」
グローブを見詰めながら殴りかかってきた連中のことを思い出そうとしますが、、、。
「一人は確かに平井孝弘だ。 でも後のやつらは、、、?」 見たことが有るような無いような、、、。
でも平井孝弘は2年生。 では残りは新入生か?
スマホに残していた電話帳を開いてみる。 でも分からない。
ということは先輩か? 有り得ないことではなさそうだけど、、、。
「青山君、お客さんが来てるよ。」 管理人が呼びに来ました。
(誰だろう?)と思って玄関に行ってみると、立っていたのは優紀でした。
「青山君、大丈夫?」 「授業は? さぼったのか?」
「それは、、、。」 「心配は要らない。 授業を抜け出すんじゃない。 戻るんだ。」
「でも、、、。」 「心配するな。 罅が入ってるだけだった。 すぐに動けるようになるから。」
「それでほんとに大丈夫なの?」 「みんなを心配させるんじゃないよ。 俺のことはいいから。」
それだけ言うと青山君は優紀に背を向けました。
優紀はただただ、立ち竦むしかありません。 「名志田先生とみんなによろしくな。」
「あ、、、。」 「そうだ、もうすぐ試験だろう? 理科のノート頼んだよ。」
「は、はい。」 優紀はなんとなくまたまたキュンとしてしまった。
それから三日ほどして金曜日。 「青山君に郵便物が来てるよ。」
洗濯物を干していた彼の所へ管理人が大きめの封筒を持ってきました。
「何だろう?」 「dvdか何かみたいだね。」
開けてみると確かにdvdが入っていました。 「何のdvdなんだろう?」
不思議な気持ちで再生してみると、、、。
「お兄ちゃん 試合にはきっと出てね!」 「うるせえ! 余計なことを喋るんじゃねえよ!」
「キャーーーーーー!」 何処かの暗い部屋のようです。
「葵だ、、、。 葵が攫われたんだ。」 画面には縛られて殴られ続ける葵の姿が、、、。
「あんちきしょう、、、ついにやりやがったか。」 忌々しいあの連中の顔が浮かんできます。
でも、その暗い部屋が何処なのか見当が付きません。 「場所さえ分かればいいんだけど、、、。」
「青山、俺たちの言うことを聞かないんなら妹は殺すからな。 三日だけ時間をやる。 試合に出るか出ないか、返事をしろ。」
その一瞬、見覚えの有る校旗が見えました。 「そうか。 体育倉庫だ。」
「何だって? 妹さんが誘拐されてるって?」 「そうです。 場所はぼくが居たあの高校の体育倉庫です。」
「何でそんなことが分かったんだ?」 「旗が見えたんですよ。 それで、、、。」
青山君はそれだけ言うと寮を飛び出していった。



