『早く元気になるんだよ。』 小さなメモが置いてあるだけ。
 クラスメートたちは知らない振りをして騒ぎに夢中。
あのアイドルが結婚したの、あいつが離婚した能登他愛も無い話題を引っ張り出しては賑やかに話しています。
 名志田先生が青山君を呼びに来ましたね。 「ちょっと話が有るんだ。」
部室に籠った二人は何とも言えない複雑な顔で向き合いました。 「高野連がさ、、、。」
「出場停止を言ってきたんでしょう? 分かってます。 それだったらこっちで犯人を捕まえようじゃないですか。」 「とはいっても分かってるのか?」
「おそらくは柳田。 こいつはぼくといつも喧嘩してたやつです。」 「でもそれだけじゃ、、、。」
「ぼくが転校する前の日、「一生怨んでやるから覚えてろよ。」って葉書を送り付けてきたんです。」 「それは有るのか?」
青山君はポシェットの中から一枚の葉書を取り出して机に置きました。 柳田隆太という名前が見えますね。
「こいつ、去年の試合で北村に球をぶつけたやつじゃないか。」 「そうです。 あの時、謝ることを拒否したこいつは代わりに謝ったぼくを怨むようになったんです。」
「それでみんなを狙って?」 「でもこいつ一人でそこまでやるとは思えません。 特に優紀が狙われた今回の事件は違うような気がします。」
名志田先生はこれまでの事件を思い出してみました。 青山君がボコられ、柿沢が投げ飛ばされ、優紀が自転車で跳ね飛ばされた。
次は誰が狙われてもおかしくないんです。 「妹さんは大丈夫か?」
「体は治ってきました。 でも精神的にはまだまだで、ぼくでも怖がることが有ります。」 「そうだよな。 強姦されたんだもんな。」
二人は黙り込んでしまいました。 そこへノックの音が、、、。

 入ってきたのは教務主任の斎藤先生です。 「名志田先生にお話が、、、。」
そう言うので青山君は部室を出ました。 まだまだ3時間目です。
「やべ、、、音楽だ。」 慌てて教科書を持ち出した彼は音楽室へ猛スピードで走って行きました。
 「ところで名志田先生、部員のみんなは頑張ってますか?」 「見りゃ分かるだろう。」
「そのうえで敢えて聞いてるんです。 頑張ってますか?」 「それがどうしたんです?」
「実はね、野球部を活動停止にしろって言ってくる人が居ましてね。」 「誰です?」
「私には言えません。 でも居るんです。 しばらくはおとなしくしていてくれませんか?」 「お断りします。 生徒達には何の関係も無いことですから。」
「じゃあ、あなたに対して処分をしなければいけない。 覚悟していてくださいね。」 斎藤先生はそう吐き捨てて出て行きました。
でも名志田先生を招いたのは教頭です。 何か出来るのでしょうか?

 青山君を取り巻いている環境は次第に厳しくなってきました。 親たちの中にも退学を望む声が上がってきたんです。
それを聞いた北村は激怒しました。 「青山を退学させるって? じゃあ俺が代わりにやめてやるよ。 それでいいだろう?」
「待て待て。 お前が辞めることは無いんだ。 騒いでどうする? 落ち着けよ 北村。」 「落ち着いてられるかってんだ。」
「お前の気持ちは分かる。 でもこれはぼくの問題だ。」 青山君は懸命です。
 クラスはいつもよりざわついてきました。 担任もこれにはどうしようもなくて、、、。
「退学しろと言われるのならしますよ。 でもそれでいいんですか?」 「いや、それはちょうっと待って、、、。」
担任でさえ困惑仕切りの様子。 名志田先生は職員室の片隅で何かを書き溜めているようですが、、、。
クラスのみんなが喧嘩しそうな状態になってきた時、教室のドアが開きました。
「名志田先生じゃないか。 どうしたんだろう?」 みんなは青山君を見詰めています。
二人は耳打ちをしていますが、、、。 話がまとまったのか、みんなのほうを振り向きました。
 「私から話が有る。 これまでの騒ぎの責任を取って青山と二人 この学校を去ることにした。」 「えーーーーーー? そりゃないよ。」
「いや、決めたことだ。 上の連中も収まらなくてね。 どうしようもないんだ。 分かってくれ。」 二人は揃って頭を下げました。
「そんなの許せるかよ!」 玉川幸助が突然泣き崩れました。 他の同級生たちも唖然としたまま、、、。
 「これから俺たちは辞職願と退学届けを教頭に出してくる。」 みんなはいつも通りに監督と一緒に部活を続けてくれ。」
「そんなこと言ったって、、、。 青山が居ないんだったら部活だって意味無いよ。」 「そう言わずにここは見守ってくれ。」
青山君は佐々木大輔に自分のグローブを渡しました。 「頼んだぞ。」
それから二人は校長室へ、、、。 届を出してから怒号が飛び交う中を校外へ出て行きました。
 これだものだから翌日の新聞はまたまた書きたい放題に書いてますねえ。 「名志田が裏切った。」とか「教頭に押されて辞職した。」とか。
そしてテレビ局が取材に押し掛けてきました。 これには強く言い切ったはずの教務主任も真っ青。
記者から逃げるのが精一杯。 「なんだ、あいつは首を切っておいてだんまりだぞ。 卑怯なやつだ。」
 この話は県内全域の高校にまで知れ渡ってしまいました。 となると「うちに青山をくれ。」と言ってくる野球部が出てきまして、、、。
 「高野連はこの騒ぎをどう終わらせるつもりなんだろうか?」 情報番組の注目はそこですか?
 退学を求めて騒いできた親たちは実際に青山が退学してしまうと【我 関せず】を決め込んでしまいました。
「どいつもこいつもやりたい放題だな。 大人のくせにこれかよ。」 北村はボールを握りながら憤懣やるかたなしといった感じ。
 青山君が居なくなった教室は水を打ったように静まり返っています。 教科担任も成す術が無い様子。

 そのニュースを病室で聞いていた優紀は寂しくなって窓の外を見詰めるばかり。
だからといって、すぐに動けるわけでもなくてベッドの中で悶々としています。 (青山君まで辞めちゃった。)
それは優紀にとって人生を左右するほどの大きな問題に見えました。
 それから数日後、北村と柿沢が封筒の束を持って校長室へ行きました。 いったい何をする気なんでしょうか?
「俺たち、みんなで決意しました。 誰も止めないでください。」 北村がそう言って封筒の束を校長に渡します。
「これは何のつもりだ?」 「ぼくらの気持ちです。 それ以外の何物でもありません。」
 校長室をさっさと出てきた二人は教室へ戻るとみんなに帰るように促し始めました。
この行動を担任でさえ止めることが出来ません。 みんなが帰ってしまった後、彼は校長室に呼び出されました。
「2年3組の生徒たちが全員一致で退学届けを出してきた。 この際はあなたも責任を取ってください。」 「校長、それはまず校長からやるもんじゃないんですか?」
「何だと? 君は口答えする気か! 首だ! 出て行け!」 「分かりました。 こんな部活もボロボロで偏差値も幼稚園並みの高校なら喜んで辞めますよ。」
「貴様!」 教頭までが青い顔で怒鳴り始めましたが、、、。
 折も折、世間的にも変な事件が立て続けに起きています。
世の中が悪いのか、人間が悪いのか?
 まあね、障碍者施設でお茶に洗剤を入れて飲ませても誰も咎めたりしない可哀そうな国だからしょうがないのかなあ?
理事長がやったことははっきりしているのに、事件にすらならないなんておかしすぎませんか?