「おっはよう! 青山君!」 ホームルームギリギリにみんながドバっと雪崩れ込んできました。
「危ないっつうの。 気を付けろや。」 「痛いなあ。 何すんだよ?」
「ほらほら、喧嘩しないの。 ったくもう、これなんだからなあ。」 「ぶりっ子が何課言ってるぞ。」
「誰がぶりっ子よ?」 「舞子だよ。 舞子。」
「あたしはいつでもふつうですけど。」 「何処がふつうなんだよ?」
「うるさいなあ。 北村様、たまには静かに出来んのかね?」 「お前だって言えねえだろうがよ。 清水君。」
「これだもんなあ、、、だからダメなのよねえ うちの男子は。」 優紀はいつものこととはいえ、苦虫を噛み潰したような顔で同級生たちを見ています。
「あーあ、今日もまたアホなやつらと付き合うのか。」 「何だと?」
「だからさあ、喧嘩はやめなさいって言ってるの。」 「止まらないと思うよ。 こいつら喧嘩するために生まれてきたんだから。」
青山君は教科書をめくりながら思案顔です。 「こんなに進んだのか。 これじゃあ分かんねえや。」
「優紀に教えてもらえばいいじゃん。 あいつ、青山のことが好きなんだからさあ。」 「余計なことを言わないの。 お喋りなんだから。」
「ほんとのことだもんなあ。 優紀?」 「さあねえ。 英語の勉強でもしましょうか。」
「あ、話を逸らした。」 「うるさいっつうの。 騒ぐなよ。 タコ。」
「タコとは何だ タコとは?」 「さあさあ、ホームルームを始めるぞ。」
いつの間にか担任が前に立っていました。 「今日も賑やかだな。 それはいいけど、やることはやれ。」
担任が睨みつけているのは北村君です。 「お前だぞ お前。」
「林原、お前だって同じだろう?」 「先生、こいつと一緒にしないでよ。」
「されたくなかったら真面目にノートくらい書いたらどうだ?」 「そうだそうだ。」
「石原も人のことは言えないだろう?」 まったく、、、どうしようもないクラスですねえ。
青山君はみんなが騒いでいる中も優紀のノートを見ながらチェックを続けています。 「数学は危ないなあ。 方程式なんて分かんなくて、、、。」
「青山君もそうなの?」 「どうもねえ、理数系は苦手なんだよ。」
「そっか。 私もちんぷんかんぷん。」 「お互い様だな。」
なぜか、今日の優紀は青山君の表情が気になって気になって仕方ありません。
喧嘩に巻き込まれ、妹を誘拐され、挙句の果てには脅迫までされたんだから、、、。
それでもこうして教室に居る。 今日から部活にも出るっていうし、頼りになるなあ。
「おい、優紀。 何ぼんやりしてるんだ?」 「え?」
「目が死んでるぞ。」 「ごめんごめん。 考え事してたのよ。」
「また青山か?」 「違うってば。」
「じゃあ、、、。」 「分かった。 昼飯のことだろ?」
「違うってば。 そんなんじゃないってば。」 思い切り焦っている優紀に青山君は何かを感じたのですが、、、。
部活もいや増して熱気がこもってきました。 「行くぞ! 捕れよ!」
コーチも気合が入っています。 走り込みもバッティングも様相が変わってきました。
「よしよし。 小学生も3年生くらいかな。」 「まだそんなもん?」
「そうだ。 お前たちはやっと本気になってきたところだ。 優勝校は練習試合もたくさんやってるんだぞ。」 「じゃあ、俺たちも?」
「うちはまだまだだよ。 今やっても大した結果は出せないよ。」 「なあんだ。 つまんねえの。」
「監督の言うことは当たってるよ。 やっとバットに当てられるようになったんだ。 これからだよ。」
青山君は汗を拭いながら優紀を見ました。
優紀はスコアブックを見ながら印を付けています。 「何書いてるの?」
「名志田先生に言われたのよ。 特異なコースと苦手なコースを調べてくれって。」 「そうか。 特異なコースに打ち込みをさせようってんだな。」
青山君はブックを見ながら打順を組んでみた。
1番 サード 米原。 こいつはとにかく足が速いんだ。
2番 キャッチャー 品川。
3番 ライト 鈴木。
4番 ピッチャー 青山。
5番 レフト 町田。
6番 ファースト 柳原。
7番 セカンド 山内。
8番 ショート 寺井。
9番 センター 高島。
書きあがった打順票を見ながら青山君は溜息ばかり。 「どうしたの?」
「集めてみたんだけどさ、ここってやつが居ないんだよなあ。」 「何で?」
「2番はとにかくランナーを送らなきゃいけない。 でもこいつはバントが死ぬほど下手なんだ。」 「でも、、、。」
「だからってこいつ以外にバントできそうなやつも居ないんだよ。 ブンブン丸が多くてさ。」 「振らなきゃいいってこと?」
「そうとも限らない。 いざとなれば打ってもらわないと困るんだよ。 三振ばかりじゃ試合にならない。」 「難しいなあ。」
その日から彼は品川君に付きっきりでバントを教え込むのでした。 「よし。 少しはバントらしくなってきたな。」
「いいのかい?」 「当てるだけでも大変だ。 打球が勢い良く飛んでも困るんだよ。 適度に殺す必要が有るんだ。」
夕日が沈みかけている頃、やっと二人の練習は終わりました。 バットを握っていた部員たちは手に豆が出来たと大騒ぎ。
「馬鹿だなあ。 バットをずっと振ってりゃ豆くらい出来るよ。 出来ないほうがおかしい。」 「そりゃそうだろうけど、、、。」
「豆が出来なかったから弱かったんだろう? 練習してませんってみんなに言ってるようなもんだよ。」 「そうなのか。」
「そうなのか、、、、じゃなくてさあ。」 青山君は北村や清水を見ながらポカンとしてしまいました。
(こいつらは予備で入ってもらうけど、、、出さないわけにもいかないんだよなあ。) 名志田先生も同じ悩みを抱えていたようです。
その頃、優勝候補と目されている高校は練習試合を繰り返しています。 でも、あの高校が出場停止になったので何だか盛り上がりません。
しかも青山が一番弱い高校に転校したことは物笑いの種にしかならなくて、、、。
「あいつさあ、なんであんな弱い高校に転校したんだ?」 「彼女でも居るんじゃないのか?」
「彼女目当て化。 あの剛腕ピッチャーも終わったなあ。」 「まあ、いいじゃないか。 ボコボコにしてやればいいんだよ。」
「それもそうだ。 面白い相手が居なくなったんだからなあ。」
そんな噂ばかりが流れているからか、マスコミの甲子園予想も首を捻るばかり。
適当な相手が見付からなくて地区大会前だっていうのに番組も作れないようです。
あの高校の出場停止は余程に痛かったのでしょうねえ。
「いいか。 6月になると地区大会が始まるんだ。 一本でも打てるように鍛えておけ。」 「はい。」
「返事だけは良くなってきたなあ。」 「コーチ、そりゃねえよ。」
「言われたくなかったら豆を潰してこい。」 「潰したら痛いじゃないか。」
「そんなことを言ってるようじゃあ打てるようにはならんぞ。」 「分かった。 分かったから睨まないでよ。」
5月も中旬を過ぎました。 そろそろ地区大会の組み合わせが発表される頃です。 みんなは心配で堪りません。
名志田先生は優紀と青山君を部室に呼びました。 「いいか。 これからは試合向けのプログラムをやる。 打って走って取る。 これが大事なんだ。」
「そうですね。 走るのはいいんですけど打つのが、、、。」 「そこでだ。 優紀も投げてほしいんだ。」
「私が?」 「そう。 遅い球も速い球も見極められるようにね。」
名志田先生には何か作戦が有るようですが、、、。 話が終わった後、優紀は青山君からボールを貰いました。
(これで少しは投げれるようにしないとな、、、。) お手玉のように遊んでいると北村がやってきました。
「おー、優紀も投げるのか?」 「さあねえ。」
「優紀にまで投げさせるようじゃ終わってるぞ 俺たち。」 「そうだよ。 なんたって優紀と青山じゃ速さが違い過ぎる。」
「先生は何をする気なんだ?」 「何もしないよ。」
「え? それじゃあ、、、。」 「優紀に投げさせたくなかったらしっかりやるんだな。」
「危ないっつうの。 気を付けろや。」 「痛いなあ。 何すんだよ?」
「ほらほら、喧嘩しないの。 ったくもう、これなんだからなあ。」 「ぶりっ子が何課言ってるぞ。」
「誰がぶりっ子よ?」 「舞子だよ。 舞子。」
「あたしはいつでもふつうですけど。」 「何処がふつうなんだよ?」
「うるさいなあ。 北村様、たまには静かに出来んのかね?」 「お前だって言えねえだろうがよ。 清水君。」
「これだもんなあ、、、だからダメなのよねえ うちの男子は。」 優紀はいつものこととはいえ、苦虫を噛み潰したような顔で同級生たちを見ています。
「あーあ、今日もまたアホなやつらと付き合うのか。」 「何だと?」
「だからさあ、喧嘩はやめなさいって言ってるの。」 「止まらないと思うよ。 こいつら喧嘩するために生まれてきたんだから。」
青山君は教科書をめくりながら思案顔です。 「こんなに進んだのか。 これじゃあ分かんねえや。」
「優紀に教えてもらえばいいじゃん。 あいつ、青山のことが好きなんだからさあ。」 「余計なことを言わないの。 お喋りなんだから。」
「ほんとのことだもんなあ。 優紀?」 「さあねえ。 英語の勉強でもしましょうか。」
「あ、話を逸らした。」 「うるさいっつうの。 騒ぐなよ。 タコ。」
「タコとは何だ タコとは?」 「さあさあ、ホームルームを始めるぞ。」
いつの間にか担任が前に立っていました。 「今日も賑やかだな。 それはいいけど、やることはやれ。」
担任が睨みつけているのは北村君です。 「お前だぞ お前。」
「林原、お前だって同じだろう?」 「先生、こいつと一緒にしないでよ。」
「されたくなかったら真面目にノートくらい書いたらどうだ?」 「そうだそうだ。」
「石原も人のことは言えないだろう?」 まったく、、、どうしようもないクラスですねえ。
青山君はみんなが騒いでいる中も優紀のノートを見ながらチェックを続けています。 「数学は危ないなあ。 方程式なんて分かんなくて、、、。」
「青山君もそうなの?」 「どうもねえ、理数系は苦手なんだよ。」
「そっか。 私もちんぷんかんぷん。」 「お互い様だな。」
なぜか、今日の優紀は青山君の表情が気になって気になって仕方ありません。
喧嘩に巻き込まれ、妹を誘拐され、挙句の果てには脅迫までされたんだから、、、。
それでもこうして教室に居る。 今日から部活にも出るっていうし、頼りになるなあ。
「おい、優紀。 何ぼんやりしてるんだ?」 「え?」
「目が死んでるぞ。」 「ごめんごめん。 考え事してたのよ。」
「また青山か?」 「違うってば。」
「じゃあ、、、。」 「分かった。 昼飯のことだろ?」
「違うってば。 そんなんじゃないってば。」 思い切り焦っている優紀に青山君は何かを感じたのですが、、、。
部活もいや増して熱気がこもってきました。 「行くぞ! 捕れよ!」
コーチも気合が入っています。 走り込みもバッティングも様相が変わってきました。
「よしよし。 小学生も3年生くらいかな。」 「まだそんなもん?」
「そうだ。 お前たちはやっと本気になってきたところだ。 優勝校は練習試合もたくさんやってるんだぞ。」 「じゃあ、俺たちも?」
「うちはまだまだだよ。 今やっても大した結果は出せないよ。」 「なあんだ。 つまんねえの。」
「監督の言うことは当たってるよ。 やっとバットに当てられるようになったんだ。 これからだよ。」
青山君は汗を拭いながら優紀を見ました。
優紀はスコアブックを見ながら印を付けています。 「何書いてるの?」
「名志田先生に言われたのよ。 特異なコースと苦手なコースを調べてくれって。」 「そうか。 特異なコースに打ち込みをさせようってんだな。」
青山君はブックを見ながら打順を組んでみた。
1番 サード 米原。 こいつはとにかく足が速いんだ。
2番 キャッチャー 品川。
3番 ライト 鈴木。
4番 ピッチャー 青山。
5番 レフト 町田。
6番 ファースト 柳原。
7番 セカンド 山内。
8番 ショート 寺井。
9番 センター 高島。
書きあがった打順票を見ながら青山君は溜息ばかり。 「どうしたの?」
「集めてみたんだけどさ、ここってやつが居ないんだよなあ。」 「何で?」
「2番はとにかくランナーを送らなきゃいけない。 でもこいつはバントが死ぬほど下手なんだ。」 「でも、、、。」
「だからってこいつ以外にバントできそうなやつも居ないんだよ。 ブンブン丸が多くてさ。」 「振らなきゃいいってこと?」
「そうとも限らない。 いざとなれば打ってもらわないと困るんだよ。 三振ばかりじゃ試合にならない。」 「難しいなあ。」
その日から彼は品川君に付きっきりでバントを教え込むのでした。 「よし。 少しはバントらしくなってきたな。」
「いいのかい?」 「当てるだけでも大変だ。 打球が勢い良く飛んでも困るんだよ。 適度に殺す必要が有るんだ。」
夕日が沈みかけている頃、やっと二人の練習は終わりました。 バットを握っていた部員たちは手に豆が出来たと大騒ぎ。
「馬鹿だなあ。 バットをずっと振ってりゃ豆くらい出来るよ。 出来ないほうがおかしい。」 「そりゃそうだろうけど、、、。」
「豆が出来なかったから弱かったんだろう? 練習してませんってみんなに言ってるようなもんだよ。」 「そうなのか。」
「そうなのか、、、、じゃなくてさあ。」 青山君は北村や清水を見ながらポカンとしてしまいました。
(こいつらは予備で入ってもらうけど、、、出さないわけにもいかないんだよなあ。) 名志田先生も同じ悩みを抱えていたようです。
その頃、優勝候補と目されている高校は練習試合を繰り返しています。 でも、あの高校が出場停止になったので何だか盛り上がりません。
しかも青山が一番弱い高校に転校したことは物笑いの種にしかならなくて、、、。
「あいつさあ、なんであんな弱い高校に転校したんだ?」 「彼女でも居るんじゃないのか?」
「彼女目当て化。 あの剛腕ピッチャーも終わったなあ。」 「まあ、いいじゃないか。 ボコボコにしてやればいいんだよ。」
「それもそうだ。 面白い相手が居なくなったんだからなあ。」
そんな噂ばかりが流れているからか、マスコミの甲子園予想も首を捻るばかり。
適当な相手が見付からなくて地区大会前だっていうのに番組も作れないようです。
あの高校の出場停止は余程に痛かったのでしょうねえ。
「いいか。 6月になると地区大会が始まるんだ。 一本でも打てるように鍛えておけ。」 「はい。」
「返事だけは良くなってきたなあ。」 「コーチ、そりゃねえよ。」
「言われたくなかったら豆を潰してこい。」 「潰したら痛いじゃないか。」
「そんなことを言ってるようじゃあ打てるようにはならんぞ。」 「分かった。 分かったから睨まないでよ。」
5月も中旬を過ぎました。 そろそろ地区大会の組み合わせが発表される頃です。 みんなは心配で堪りません。
名志田先生は優紀と青山君を部室に呼びました。 「いいか。 これからは試合向けのプログラムをやる。 打って走って取る。 これが大事なんだ。」
「そうですね。 走るのはいいんですけど打つのが、、、。」 「そこでだ。 優紀も投げてほしいんだ。」
「私が?」 「そう。 遅い球も速い球も見極められるようにね。」
名志田先生には何か作戦が有るようですが、、、。 話が終わった後、優紀は青山君からボールを貰いました。
(これで少しは投げれるようにしないとな、、、。) お手玉のように遊んでいると北村がやってきました。
「おー、優紀も投げるのか?」 「さあねえ。」
「優紀にまで投げさせるようじゃ終わってるぞ 俺たち。」 「そうだよ。 なんたって優紀と青山じゃ速さが違い過ぎる。」
「先生は何をする気なんだ?」 「何もしないよ。」
「え? それじゃあ、、、。」 「優紀に投げさせたくなかったらしっかりやるんだな。」



