家に帰ると相変わらず真っ暗な部屋が広がっていることに私はついため息をついてしまった。
お父さんと二人で暮らしているこの家はお世辞にも立派な家じゃない。一戸建てのアパートの一室。とはいえお金には困らずたまに贅沢ができるようなそんな家庭。ではなぜ私がため息をこぼすのかというとお母さんがいることを期待してしまうから。私が10歳の時、お母さんが記入済みの離婚届を残して失踪してしまった。それより前からお父さんと口論していることも、お母さんが浮気しており、お父さんはそんなお母さんを見放していることも知っていた。だからお母さんがいなくなることを予想していなかったわけじゃない。
お母さんに大切にされた記憶もない。ただ、友達の家にはお母さんがいてご飯を作ってくれたり、甘えさせてくれているのだと思うと寂しくて、無性に泣きたくなってしまう。よくないなぁ…そんな思いを抱えながら過ごしていた高2のある日、お父さんがすごくきまずそうな顔をして私に話しかけてきた。