【第一話】
過去。十五歳のレジェスは死にかけていた。
レビオンでは獣人は非常に珍しく、ペットとして飼うような悪趣味な貴族も多い。
そのため奴隷商による獣人狩りが横行しており、運悪くお忍びで町を歩いていた際、誘拐されてしまったのだ。
鞭打たれ、命からがら逃げ出したはいいものの、森の中で力尽きて倒れてしまう。
そんな時、黒髪にすみれ色の瞳をした幼い少女が、レジェスの怪我を不思議な力で治してくれた。
「ここで待っていて。食べ物を持ってくる」
礼をしたかったが、一刻も早く国へ戻らなければ危険だ。
後ろ髪を引かれる思いでその場を立ち去るレジェス。

【第二話】
現在。物々しい雰囲気に包まれた王宮。
「命を助けてもらえるなら、我が娘を差し出す。聖女の力を持つ娘だ。連れて行く価値はあるだろう」とレビオン国王。
侵略者であるレジェスに捕らわれ、恐怖のあまり気絶するダイアン(クラリス)。
ダルア王国で目覚めたダイアンに、レジェスは形ばかりの結婚式を行い彼女を妻にすると告げる。
「監視の為だ。君のような悪女を本物の妻にする気はない」と言われるが、それよりパタパタと動く尻尾や可愛い耳が気になって仕方がない。
「こんな素敵なモフモフがわたくしの旦那さまなんて、最高!」
ダイアンはブラシを持ってレジェスを追いかけ回す。

【第三話】
侍女に嫌がらせをされても涼しい顔で受け流すダイアン。
それどころか下女の輪に交じって、汚されたドレスを洗濯したり、余った食材を分けてもらって料理をしたり。最初は遠巻きにしていた下女たちも、気さくなダイアンの様子に少しずつ心を開いていく。
「文字も読めない下民と仲良くするなんて」「悪女のくせに楽しそうにして」と、あらゆる意味でダイアンが気に入らない侍女。自作自演で自らに傷を作り「ダイアンさまのせいです」と貶めようとする。
さすがに信じてもらえないかもしれない、と不安に思うダイアンだったが、レジェスは傷跡を見てすぐに侍女の仕業であることを見抜く。
「私は誰であれ、嘘をつく輩が嫌いだ」
かつてお忍びで町を歩いていた際、親切なふりをして声を掛けてきた獣人にだまされ、奴隷商に売り払われた経験があるレジェスは何より嘘が嫌いだった。