今宵は満月。


 花弁のような羽をひらひらさせながら、翠緑の蝶が天から舞い降りる。降り立った先は、池をじっと見つめる少年の肩。


『――柊(ひいらぎ)。どう?』

「そろそろだね」

『そろそろなのね』

「楪(ゆずりは)は何処までいってたの」

『月まで』

「自由に彷徨うのはいいが、僕だって羽をのばしたい」

『ごめんね』


 ふわりと蝶は肩から離れて、蝶柄の翠緑の着物を纏った少女へと姿を変える。


「ここは、わたしが見ててあげるから」

「頼むよ」


 少年もまた、蝶へと姿を変える。蒼紫の羽を優雅に広げて、夜空へと消えてゆく。


 夢幻のような現でこの光景は、泡沫市ではよくあることだ。



 これはまだ物語の、ほんのヒトカケラでしかない。