終点でバスを降りた月伽はそのままホームへと向かい、目的の電車が来るまでの時間を読書で暇を潰した。
読書はいい。知識も幻想も手に入る。時に人は、生活音から遠ざかりたくなる時がある。物語はそれを叶えてくれる、救世主や英雄のような存在なのだと信じている。
程無くして、臙脂色のフォルムが美しい泡沫行きの電車が到着する。
その瞬間を待ちわびた月伽は本を閉じ、春の煌めきを纏った少女のように、軽やかな足取りで乗り込む。
これが死へと続く道行きなのだと思うと、それはたまらなく甘美で、愛しい。
月伽を乗せた電車がホームを去った後に、年若い男女のカップルが駅員を呼び止める。
「すみませーん。泡沫行きの電車には、ここから乗ればいいんですか?」
すぐに返答が返ってくると思っていたのだが、駅員の反応は意外なものだった。
長い沈黙。そして、困惑した様子でこう答えた。初めて聞いたと言わんばかりの顔だ。
「そのような電車はないですよ。何かの間違えじゃないですかね。ここに勤務して長いですけど、私は知りません」
読書はいい。知識も幻想も手に入る。時に人は、生活音から遠ざかりたくなる時がある。物語はそれを叶えてくれる、救世主や英雄のような存在なのだと信じている。
程無くして、臙脂色のフォルムが美しい泡沫行きの電車が到着する。
その瞬間を待ちわびた月伽は本を閉じ、春の煌めきを纏った少女のように、軽やかな足取りで乗り込む。
これが死へと続く道行きなのだと思うと、それはたまらなく甘美で、愛しい。
月伽を乗せた電車がホームを去った後に、年若い男女のカップルが駅員を呼び止める。
「すみませーん。泡沫行きの電車には、ここから乗ればいいんですか?」
すぐに返答が返ってくると思っていたのだが、駅員の反応は意外なものだった。
長い沈黙。そして、困惑した様子でこう答えた。初めて聞いたと言わんばかりの顔だ。
「そのような電車はないですよ。何かの間違えじゃないですかね。ここに勤務して長いですけど、私は知りません」



