終点でバスを降りた月伽はそのままホームへと向かい、電車が来るまでの時間を読書で暇を潰した。


 そしてホームに、臙脂色の泡沫行きへの電車が到着する。その瞬間を待ちに待った月伽は、春の煌めきを纏った少女のように、軽やかな足取りで電車に乗り込む。


 これが死へと続く道行きなのだと思うと、それはたまらなく甘美で、愛しい。


 月伽を乗せた電車がホームを去った後、若い男女のカップルが駅員を呼び止める。


「すみませーん、泡沫行きの電車にはここから乗ればいいんですか?」


 すぐに返答が返ってくると思っていたのだが、駅員の反応は意外なものだった。


 しばし沈黙し、それから困惑した様子でこう答えた。




「そのような電車はないですよ……?」