風が庭園を駆け抜けてゆく。穏やかだった花の海を目醒めさせるように、大きく花弁を揺らす。

 男は沈黙したままだ。すなわちそれは肯定の意だと希石は捉え、急かす事もなくただ、その先を待つ。



「これを。――いつかきっと、役に立つでしょうから」



 男がパチンと指を鳴らせばトランクケースが、突然何もない空間からぽんっと現われ慌ててそれを受け止める。



「おい――」



 何か言い募ろうとしたが、それが叶うことはなかった。金色の蝶となって、東の方角へと飛んでいってしまった。一言二言文句を言われる前に退散したのかもしれないが。





 今となっては、泡沫の夢。




 あまりにも非現実で、残酷な物語の結末。