わたしの問いかけに、野愛は驚いたようにこちらに視線を寄越した。
珍しく気の抜けた表情をしていて、変なこと言ってしまったのかと不安になる。
「元気なさそうに見える? 俺」
「うん。あんまり意地悪して来ないし、ため息ついてばかりだもん」
意気揚々と意地悪して来ない野愛は、野愛じゃない。
まるでみんなの王子さま“ノア様”のようで、作り物の彼を見ている気分になる。
誤解を招きたくないので一応断っておくと、わたしは断じていじめられたいわけではない。
だけどやっぱり野愛にはそのままの彼でいてほしい、ただそれだけなのだ。
「だってさあ、瑠璃ちゃんのせいじゃん」
野愛は資料の束をポイッと放って、頬杖をついた。
そのまま、目の前に立っているわたしに艶やかな瞳を向ける。
ムカつくくらいに美しいせいで、心臓が変に暴れてしまう。



