「従順だもんな、瑠璃ちゃんって」
野愛の命令は、絶対なの。
わたしなんかが、逆らえるはずがない。
「……野愛を怒らせたらわたしの身が危ないし」
予防線、張ってるの。
「よくわかってんじゃん。偉い子」
ニヒルに口角をあげると、わたしの手をとり、野愛の双眼が見つめてくる。
透き通るような彼のアールグレイの瞳。
吸い込まれそうな錯覚に陥りながらも、目が離せなかった。
そのまま色っぽい瞳をわたしに向けたまま、わたしの瞳を絡め取る。
微動だに出来ずにいると、デスク越しにわたしの手を引き、野愛のほうに身体が倒されたおかげで至近距離で見つめ合う。
だんだん頬が熱くなっているのを自覚して、恥ずかしくなる。
野愛はそんなつもりないのに。
ただ、距離感がおかしいだけなのに。
楽しそうに口角をあげる彼を見たら、ドキドキよりもムカムカが勝ちそうになる。
「……っの、野愛、はなして……!」
「やぁだ。 まあ、たしかに俺の言うこと無視したらさあ、」
ほら、こういうところ。
ふつうのひとは、ただの同級生に絶対にしないことを平然とやってのける。
掴んだわたしの左手の甲に王子様のように唇を当て、彼は妖艶に言うのだ。
「もっと楽しいこと、するかもね?」
どうして、野愛はこんなにも。
ひとを魅了し、夢中にさせるんだろう。
きっとわたしは、一生わからない。
「〜〜っ野愛のばかああああっ!!!」



