彼方は次のフライトの時間まで、葵といつも話をする。飛行機という大好きな乗り物を操縦する技術と資格を持った彼方を、葵は憧れと尊敬を抱きながら接していた。

二人の出会いはちょうど半年前、葵が空港で飛行機の写真を撮り始めた頃のことだった。葵は元々空港関係の仕事に就きたかったのだが、家が裕福な家庭ではないため泣く泣く諦め、介護の仕事に就いた。そんな葵に彼方は話しかけ、飛行機や空港のことを詳しく教えてくれた。

「空港のレストランに新しいメニューが加わったんですよ」

「えっ?どんな料理なんですか?」

「クロックムッシュというフランス発祥のホットサンドイッチです」

「うわぁ〜、おいしそうですね!帰りに寄ってみようかな!」

飛行機を見ながら葵と彼方は話す。決して恋人ではない。しかし、友達と呼べるほど気軽な関係でもない。だが、この関係を葵は気に入っている。

「水谷さんって飛行機に乗られたことはあるんですか?」

彼方が訊ね、葵は「一度だけあります」と答えた。高校の修学旅行の行き先が北海道だったため、その時に初めて乗ったのだ。空を飛んだ時の興奮を葵は今でも覚えている。