キャビンアテンダントの一人が大声を上げると、もう一人のキャビンアテンダントも、「今度妹が出産するんです!甥っ子の顔が見たい!死にたくない!」と泣き始めた。

「あっ……ああっ……」

言葉を失ってしまう葵に対し、彼方はいいことを思い付いたと言わんばかりに笑顔で話しかける。

「父は今度、銀婚式のお祝いで母と二人で箱根へ旅行に行くんですよ。先輩は今度奥さんと結婚式を挙げるんです。奥さんのお腹の中には赤ちゃんがいるそうですよ。……水谷さんが俺の気持ちに応えてくれないと、全員の幸せな未来はなくなってしまいますね」

目の前にいる人は人間なのかと葵は思ってしまう。手は小刻みに震えた。選択肢などない。最初から答えは決められている。だが、その答えを口にすれば、もう葵は戻ることはできない。

(空の上じゃ、逃げられない……)

葵は震えた唇で選択した答えを口にする。すると、彼方の顔は幸せそうな笑顔に染まった。