何を言われたのか瞬時には理解できず、オーランドは固まった。

 彼が呆れ果てているとは露知らず、前のめりになったレジーは力説する。

「彼女だって僕を待っていたはずです。すぐに助けてあげることは出来ませんでしたが、王宮で会うたびに彼女は瞳を潤ませて僕を見つめました。きっと僕の助けを信じてくれていたのですよ」
「……」
「そうしてひと月前、ようやくあの毒婦を退けて僕とジル殿は結ばれるはずだったのに」
「待て……待て、やめろ」

 人と話していて急激に頭が痛くなったのは初めてだった。大変都合よく捏造されたラブロマンスを大真面目に語るレジーは、こめかみを押さえるオーランドを見て何を勘違いしたのか、得意げな笑みで胸を張る。

「僕とジル殿の絆をわかっていただけましたか? ならば早く彼女に会わせてください。横恋慕は感心しませんね」

 ──兄ヴァレリアンが何故この男を革命軍の長に選んだのか、たったいま理解した。

 恐らくレジーは正義感に酔いやすいのだ。聞こえのよい言葉で自らを正当化するのは勿論、それを真実と思い込み、躊躇なく実行する。ゆえに他人から同様の手順でおだてられてしまえば、簡単に操り人形になってしまうわけだ。

 アゼリア王家は民の暮らしを悪化させる一方だ。みんな新しい風に、レジーに期待している。クロエ王女に飼われている獣人だって君の奮起を待っているだろう。

『ね、レジー。私は君とよき友人になりたいな』

 ヴァレリアンの柔和な声が頭をよぎり、オーランドは苦笑する。我が兄はつくづく恐ろしい人だと。

 そこまでおだてておきながら、レジーには一切、何かを成し得る力を与えていないところが。

「……レジー、なら俺から奪えばいい。ジルに呼びかけて、この手を取ってくれと懇願しろ。『僕は君が殴られても嘲笑されても何もせずにいたけど、想い合ってるんだから許してくれるよね』とな」

 レジーが戸惑ったように言葉を失う。予想通りの反応にオーランドはついに声を上げて嗤った。