察するにジルはそういうことも知らないのだろう。そんなに興味があるなら触ってもいいよ、と親切心で言ったに違いない。そこに下心はない。断じてないのである。

 しかし耳がデリケートな部位であることは事実で、そこを触らせてもいいと思うぐらいにはオーランドに心を開いてくれたのも、また事実だ。

 こうして膝に乗せても固まらなくなったし、警戒が薄れたのは確かだろう。ならば少しだけ、とオーランドは手触りの良いジルの髪を撫でる。

「どこなら良いんだ」
「へ? あ、うーん……根元はざわざわするから、そこは避けてほしい、です」

 言われた通りに耳の付け根辺りは触れないように注意して、尖った先端を指先でくすぐった。滑らかな毛並みが皮膚を滑るのが心地よく、しばし夢中でその感触を楽しんでいたオーランドが、耳殻の内側にあるふわふわとした毛を触ったとき。

 ぺしょ、と耳が倒れた。

 反射的に指を離し、調子に乗ってしまったかとすぐにジルの顔を覗き込めば──りんごのように頬を赤らめた彼女がそこにいた。

「……や、やっぱり、だめです」

 ぱっと顔を両手で覆ったジルが、その時ばかりは獣人らしい軽快な走りで逃げていったのは言うまでもない。



 図らずもジルの愛らしい一面を見られて、オーランドが放心してしまったのも束の間。二人のやり取りを離れたところから見守っていた執事が、しずしずと歩み寄って口を開く。

「オーランド様。お客様がいらっしゃいました」
「……そうか。ジルに部屋へ戻るよう言ってくれ」
「かしこまりました」

 億劫な動きで立ち上がったオーランドは、軽く衣服を払い、客人のいる応接室へと向かった。