「オーランド様……?」

 気付けばオーランドは木陰に腰を下ろし、膝に乗せたジルをぎゅっと抱き締めていた。

 眼前にはふわふわの耳。付け根の辺りが少しだけ欠けており、聞けば幼い頃クロエに耳を切られそうになったときの傷だとか。

 これほど愛らしい耳を何故、アゼリア王国の者たちは穢らわしいなどと言うのだろう。オーランドには到底理解できなかった。

「……あの……触りたかったら、どうぞ」
「何?」
「あっ、え、違いましたか、ごめんなさい」

 予想だにしない言葉についつい大きな声で聞き返してしまった。ハッと我に返ったオーランドが「すまない」と謝れば、ぺしょっと耳を伏せたジルが小声で言う。

「……えっと。よく耳を見ているから、触りたいのかなって、思ったんです」
「いいのか? 耳だぞ」
「?」

 ジルは不思議そうに瞳を瞬かせた。

 人間がジェスチャーで言外に自分の意思を伝えることがあるように、獣人同士のコミュニケーションにもそういったものがあると聞く。

 なかでも相手の耳を触る、あるいは自分の耳を触らせる行為が──性的な誘いであるというのはよく知られていた。

 獣人は、よほど気を許した相手でなければ耳は触らせないらしい。際どい位置にある尻尾は言わずもがな、それらの部位は非常に敏感で、優しく扱ってくれると信頼できる相手にしか──。

「ふー……」

 オーランドは深呼吸を挟んだ。