カレシの塁くんはあたしの唇を求めてない




二人きりになったからといって、塁くんと話せるわけはなく、あたしが大声を上げている側の塁くんに目を向けると、外部から来た他校生と思われる複数人の女性のお客さんに囲まれていた。


「カッコイイですねー!」

「あたし達、出し物の場所が分からなくて、良かったら案内してもらえますー?」


塁くんは『ええっとー』と、困った顔を女性客に向けては、指差しで「3階の一番奥が俺たちの教室です」と、教えていた。


それでも塁くんが目当ての女性客は引き下がるわけはなく、

「ええっ? わかんなーい」

と、甘えた声を出した。


さすがのあたしもこれにはカチンとくる。



塁くんがモテているのに嫉妬もあるけど、この場所は唯一、塁くんと二人きりになれた場所。呼び込みの時間が終わったら、あたしは塁くんと離れ離れになってしまう。



電話越しじゃない今だけは、二人きりの時間を過ごしたい。