カレシの塁くんはあたしの唇を求めてない




結果的に鳩田くんが一緒に買い出しに行ってくれることになった。「な、なんかごめんなー」と苦笑いしながらあたしの手を引く鳩田くん。



塁くんが繋いでくれた手を上書きされているような気分になり咄嗟に離すと、鳩田くんは「ごめんごめん」と、ヒヒヒと笑った。



「そういえばさ、兼元はヒロキに『しーちゃん』って呼ばれて抵抗ないの?」


「だ、ダイジョウブ。慣れちゃったかも」


「慣れ? え? 慣れるほど名前呼びされてんの? なに、アイツコワ……」


あたしと塁くんが付き合っていることをしらない鳩田くんは、自分の腕を両手で擦る。そしてまたゆっくりと歩き出した。



「アイツ、うっさいんだよ、『しーちゃん、しーちゃん』って」


「……男子の前でも『しーちゃん』?」


「男子の前では『しーちゃん』。おかげで俺等まで兼元のこと『しーちゃん』って呼びそうになるし。で、どうよ、ヒロキは」


男子の前であたしのことを『しーちゃん』と呼んでいるとは思わなかった。そんなこと、電話で全然教えてくれなかった。