カレシの塁くんはあたしの唇を求めてない



嬉しい気持ちを必死に隠しながら、

「ペンキのインクと皆への差し入れを買い出しに行くの。塁くんたちは何がいい? アイスでもジュースでもなんでもいいよ」

そう問いかけると、教室にいる男子たちは食べたいものや飲みたいものを言い合った。残りは塁くんと八枝さん。けれど、八枝さんは到底答えれるような感じではない。


「八枝は? 何がいい?」


代わりに塁くんが聞いてくれたけれど、八枝さんは首を横に振るだけで答えてはくれなかった。


八枝さんは塁くんのことが好きだったんだと思う。告白はしていないけれど、フられたに近いこの状況。こんな状態でなにかが喉に入るはずもない。


もしあたしが八枝さんの状況だとしたら一人にしてほしいと願う。


八枝さんの手前、一瞬でも浮かれてしまった自分自身にムチを打つ。


塁くんにも欲しい物を聞くと、塁くんは八枝さんの側から立ち上がり、「そんなに大荷物一人で持つの大変だろ。一緒に行く」と言ってくれた。


「付き合っていることは内緒にしてほしい」と言わなかったなら、塁くんは八枝さんや他の女の子に「兼元と付き合ってる」と言ってくれただろうか。