カレシの塁くんはあたしの唇を求めてない




凍りつく空き教室。他の男子は「どうする?」と、顔を見合わせている。


塁くんにとっても、あたしにとっても、八枝さんにとっても、私がこれ以上ここにいたらダメだ。


「ごめん、気をつけ――」


「『顔が良いから』兼元を庇ったわけじゃない。八枝があんまし無神経なこと言うからだろ。この際だからハッキリ言っとくけど、オレ、好きな子いるから。だから他の女子含めてオレに何かを期待してるんなら諦めて」


塁くんは『ごめん、気をつける』と謝ろうとしたあたしの言葉を遮って、自分に好きな子がいるとカミングアウトした。


――塁くんに嫌われたと思った。でも、塁くんはまだ、あたしのことを好いてくれている。


嬉しくて、涙が零れそうになる感情を必死に耐えていると、

「す、すみ……くんに…………好きな人!?」


ヘタヘタと崩れ落ちるように座り込む八枝さん。想像以上に心にきたのだろう。ポロポロと大粒の涙を流した。


「そう、中学の時から好きで好きでたまらない子。……で、兼元はなんの用事だっけ? 八枝を連れ戻しに来たんだっけ?」



…………あ、塁くん今凄く『言ってやった』って、顔してる。