「よし。じゃあ僕は夏芽の準備が進んでいるか見てくるよ。遥生はさっさとそれを終わらせて」

「ああ」

遥生の部屋を出る時、どうしても遥生に言いたかったことを口にした。

「遥生、本当に夏芽を頼んだよ。夏芽を幸せにしてあげてね。絶対に・・・」

「ああ」

遥生はさっきと同じようにそっけない返事をした。

その後、僕は夏芽には会いに行かず自分の部屋の片付けを始めた。

なるべく物を残したくなかった。

しばらくすると僕の部屋の前を通った遥生が、部屋を片付けている僕に気が付いたんだ。

「なあ、直生。なにをそんなに捨ててるんだよ」

「部屋を綺麗にしているだけだよ。要らないものを捨ててるだけ」

「そんなに片付けて、なんだか直生がどこか遠くへ行くみたいだな」

遥生は僕との別れが近いと感じているのだろうか。

「ははっ。僕はどこにも行かないよ。ちゃんとここで待ってるから」

「おう、土産たくさん買ってくるから楽しみにしとけよ、直生」

遥生だけには言ってしまおうかと思った。

でも、僕は誰にも言えなかった。

このまま突然僕が死んだら、どうなってしまうのだろうか。

僕のこの身体はどうなる?

遥生や夏芽は、少しは悲しんでくれるのだろうか。

いくら考えても答えが見つかるはずはないのに。

高校生になってから毎晩考えていたことを今夜も考えていた。

明日の朝、目覚めないかも知れない、と。

今日が皆とお別れする日なのかも知れない、と。

夏芽に対して幼馴染として好きだとか、そんなのは嘘。

僕はずっとずっと夏芽のことを愛している。

僕が消える前に、夏芽に僕の気持ちを伝えてしまいたかった。




でも、それはできないんだ。



あの時の鬼ごっこで夏芽が捕まえようとしていたのは、最初から遥生だった。


夏芽はあの頃から遥生しか見ていなかったんだ。