冬休みに入り、明日カナダ留学へ行く遥生の荷造りを手伝うために遥生の部屋へ行くと、荷物がほとんど入っていないスーツケースが口を開けて無造作に転がっていた。

「遥生、荷物が全然入っていない。早くやらないと間に合わなくなるよ」

遥生はそんな僕の問いかけに面倒くさそうに返事をする。

「なあ、直生がカナダに行ってくんない? 荷造りとか、マジ面倒だわ」

遥生は心にも思っていないことを僕に言ってきた。

「へぇ、僕が夏芽と一緒にカナダに行っちゃってもいいの? ふーん。じゃあ夏芽は僕がもらうよ」

僕がそんな風に遥生の言葉に対して茶化すと、

「嘘だよ、冗談」

遥生はそう言いながらやっとスーツケースの中に荷物を入れはじめた。

その手を止めずに遥生が僕の顔をちらっと見ては目線を逸らし、僕に何か言いたそうにしている。

「遥生、僕に何か言いたいことがあるの?」

「いっ、いや。あるっちゃあるし、ないっちゃないんだけど」

遥生の態度が煮え切らない。

「夏芽のこと?」

遥生が僕に話したいことなんて夏芽のことだろう。

「いや、夏芽のことじゃなくてさ。直生のこと」

「え? 僕のこと?」

遥生から予想外に僕の名前が出てきて驚いた。

そして静かに遥生が話し始めた。

「直生、俺の勘違いかもしれないし、夢の話かもしれないんだけど」

遥生はそう前置きをして話を続ける。