気が大きくなって、つい余計なものまで見てしまい気がつけばオフィス向けというよりデートシーンに合うような服を手に試着室にいた。

 販売員のセールストークについついその気にさせられてしまう。

 その時の私の頭は、外回りの仕事のためのスーツの事なんかすっぽり抜け落ちていた。

 その時の私のイメージ・・・

 その綺麗なシルエットの服を着るなら髪は優雅に巻いて微かに甘いパフュームをつけてみる・・・

 そしてその髪にキスするのはイケメンの彼。そう・・・あの優しいのど飴のプリンスのような。

「これにします。」

 気づいた時にはそう販売員に告げていた。

 クレジットカードの精算をするあたりで(やっぱり無駄遣いは止めたほうがいいかな?)と思って迷った。

 でもマネキンの魅力的なポーズやディテイルにこだわったインテリアなんかにすっかりのまれてしまい、小洒落たショッパーを渡される頃にはそんな迷いはどこかへ消えてしまった。

「ありがとうございました。」

 販売員の営業ボイスに気分を良くして意気揚々と他のショップも見て回った。

 今、私がぶら下げている紙袋こそ魔法の衣裳。これを着るだけで私のしょぼい現実なんかキラキラとした光の粒とともに霧散して私はシンデレラのように変身する。

 私の手を取るのはうっとりするようなイケメンの彼。その彼が私よりうっとりした眼差しで私を見つめる。

 メインエントランスのツリーを眺めながら私は夢想の世界に浸っていた。