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まさか、この日、図書館で君に出会うなんて思いもしなかった。


もし、君に出会えるとわかっていたら、もっと可愛い服着て、髪の毛だってアイロンで綺麗にしていったのに。


でも、私がそんなことしなくても、君はかわらず、私に恋に落ちてくれたでしょ?


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図書館は、私が小学生の頃にできた、わりとあたらしめの施設で、かなり広い。

ここに来たのは、小学生の頃に、下校途中に寄り道した時ぶりだ。
確か、小学校3年生ぐらいだったと思う。

この図書館には昔の映画視聴コーナーがあって、好きな映画を観ることができた。

パパとママが帰ってくるまでの時間を持て余して、『スタンド・バイ・ミー』を観たことがあった。


あれ?なんであの映画を観たんだっけ…。


正直、なぜその映画を観ようと思ったのかも、内容も覚えていないけれど、主人公がすっごい綺麗な顔をした男の子だったということだけは覚えている。


奈々は、昔のことを思い出しながら、自習スペースに向かった。
自習スペースは、一人ずつスペースが確保された集中デスクと、複数人でシェアする大きなテーブルがあった。

残念ながら、集中デスクはすでに満席で、奈々は大きなテーブルのほうに座った。


よし。やるか。

英語の問題集を開く。
小学生の頃から英会話教室に通っていたおかげで、英語は得意科目。
とりあえず、得意な教科から終わらせる作戦だ。



スラスラとペンを動かしていく。
シャープペンの芯が紙に削られていく音と感覚がなんだか心地いい。

最後の問題を解き終わると、腕がじんわり熱を持っているのを感じる。
右手のペンダコも赤くなっている。
随分と集中して机に向かっていたようだ。


今何時だろう…?


壁にかかっている時計を見ようと視線を上げると、目の前の席に座っている男の子と目があった…気がした。
ふわっと前髪が揺れ、顔にかかる。


なんて綺麗な顔だろう。



奈々は、時計を確認しようと思っていたはずなのに、目の前に座る綺麗な顔をした男の子から目が離せなくなってしまった。
本のページをめくる指は長く、細い。


今、目があった…よね?


男の子は、奈々の視線なんか気づいていないかのように、本に視線を落としたままだ


目があったの、気のせいだったのかな?


奈々は時計に目をやると、18時をまわろうとしていた。


「あ、やばっ」


誰にも聞こえないくらいの小さい声でつぶやいて、慌てて問題集と筆箱をカバンにしまう。
寒さ対策に持ってきた薄手のシャツも、さっと脱ぎ、バッグに押し込んだ。


ママとパパはだいたい19時頃に帰ってくるから、急いで帰って、夕食づくりを始めないと、間に合わない。
夏休みの間は、奈々が夕食を作ることになっているのだ。


奈々は、バッグを肩にかけると、テーブルの上の消しカスを手のひらにまとめ、館内のごみ箱を探した。


あれぇ~。ごみ箱ってだいたい大きな柱の前とかにあるものじゃないの。


なかなか見つけられず、散々館内を歩いた挙句、気づいたら入り口にまで来ていた。


「あった」


図書館の入り口に、燃えるゴミとペットボトルのごみ箱が置いてあった。

奈々は、急いで消しカスをごみ箱に入れて、図書館を出た。



「…くらさん」
「奈々ちゃん」


後ろから私のことを呼ぶ声に振り向くと、さっきの男の子が立っていた。
奈々の身長は160センチあるが、奈々より20センチは身長がありそうだ。


「えっ、は…い?」


男の子は優しい笑顔になり、「やっぱり、奈々ちゃんだ」と言いながら近づいてきて、奈々のことを抱きしめた。


「えっっと…」


なんで、私の名前知っているの?
なんで私、抱きしめられているの?
それに、君は誰なの?私たち、知り合い…なの?


奈々の頭の中に次々と疑問が浮かんでいく。


「久しぶり、奈々ちゃん。ずっと会いたかった。」


奈々の背中に回していた腕をほどき、奈々の顔を覗き込むように言った。


「え…、ちょっと待って」


混乱しすぎて、今の状況を整理しようと一生懸命頭を回転させるが、全然この状況に追いつかない。


「あ、急にごめん。オレ、坂井浩(さかいひろ)。覚えている?」