「うわぁ~っ!」
 テーブルに置かれた巨大パフェに、ヒカリが歓声をあげた。
「ここのパフェは美味しいって評判なんですよ」
 向かいで明日菜(あすな)もにこにこしながら、愛用のカメラを構える。
 何層にも重なった、レモンゼリーとヨーグルトムース。てっぺんには、アイスとマカロンがこれでもかと盛られている。一人で食べ切れるサイズではない。
「これ、ほんとうに先輩の奢りでいいんですか……?」
 遠慮がちにヒカリが聞いてくるが、その目はきらきらと輝いている。
「もちろん! たくさん食べてくださいっ」
「はい! ごちそうになります」
 さっそく、ヒカリがそっとてっぺんのアイスをすくった。明日菜もゆっくり手を伸ばし、レモン色のマカロンをつまむ。ほろっとほぐれるマカロンの食感と、ほのかなレモンの味が口の中で広がった。
 ヒカリの方を見れば、幸せそうに黙々とパフェをつついている。
 明日菜はそれを微笑ましく眺めていたが、カメラを取り出して声をかけた。
「ヒカリくん」
 彼はパッと顔を上げ、「すっごくおいしい!」と答えるかわりに、ニコッと笑った。この世の幸せが全て詰まったような表情だ。
 絶対逃すものかと、明日菜はすかさずシャッターを切った。
 ――やった、撮影成功です!
「さっきの、撮ったんですか?」
 ヒカリが恥ずかしそうに言うが、嫌ではなさそうだ。
「あまりにも幸せそうだったから、つい」
 つい、とは言ったが最初からこれが撮りたかった。いや、正確に言えば、パフェそのものを撮ることも、一人じゃ食べきれないから甘党のヒカリを誘ったのも嘘ではない。ただ、あわよくばヒカリがパフェを食べている写真が撮れればいいな、とずっとチャンスを窺っていたのである。
「よく撮れてますから、安心してくださいね」
 巨大パフェを消化するべく、明日菜もスプーンを手に取った。

 その後、きれいに完食した二人は、同じモール内の雑貨屋をうろついていた。
「わぁ、かわいい」
 シールやスクラップブックが置いてあるコーナーで立ち止まった明日菜が、棚を物色し始める。
「いつも写真はアルバムに入れるかSNSに載せるだけだから、たまにはスクラップも良いかもです」
 明日菜はそう言って、スクラップブックとシールをいくつか手に取った。
「なんだか、手間かけてるぶん、こういうのって特別って感じしますね」
 ヒカリとしては何気ない発言だったが、明日菜は少し真面目な顔になった。
「……ねぇヒカリくん、今日の写真もスクラップしていいですか?」
「そ、それって――」
 ――あのパフェ食べてるだけの写真も、先輩にとっては特別ってこと?
そう聞き返す勇気はなかったが、心の中までパフェの甘さで満たされていくような心地がした。