恋をしているのは内緒~報われないと知っているから~

 彼がこんなにもあざとい思考の持ち主だったとは、ちっとも知らなかった。
 正体がわかった今、信じられない気持ちと共に愕然として怖くなってくる。
 差し入れてくれた水まんじゅうも、単に必要なくなったからうちの部に持ってきただけだったなんて。
 嬉々としてよろこんでいた先輩たちが聞いたら、みんな相楽くんに対して幻滅するだろう。

「俺、営業だろ? エンジニアじゃないから会社になにかあったら人員削減の対象になりかねない。上司や先輩に媚びを売っとくくらいでちょうどいいんだよ」

「媚びかぁ。でも別人格を演じるのはやりすぎのような気が……」

「バカ。お前も広報部なんだしそこは考えろよ。上司の心証を悪くしたら切られかねないぞ」

 私は相楽くんから“お前”と呼ばれたのは今日が初めてだ。『バカ』というはっきり(けな)すような言葉をぶつけられることもなかった。
 だからこれが本来の姿だと説明されても、すぐに頭が追いつかなくて完全にパニックを起こしている。

「聞いてるのか? ぼうっとするなよ」

「ごめん」

「もしかして、俺の本性を知ってショックを受けてるとか?」

 ニヤニヤとした意味深な笑みを向けられた私は、返事をせずに小さく溜め息を吐いてモヒートのグラスに口を付けた。
 彼の言うとおり、私はきっとショックなのだ。恋心を抱いていた爽やか王子様の相楽くんはまやかしで、本当は存在しないという現実を突きつけられたのだから。

「お前は石上派じゃなくて、俺派だもんな?」

「え?」

「当たってるだろ? 石上さんには興味なさそうだ。だから俺派だと思う」

 自分の顔に相当自信があるのか、相楽くんは色気をたっぷりと含んだ視線を私に送りながらそう言った。

「私は石上派でも相楽派でもないよ。ただ……ちょっぴりショックで悲しいだけ」