恋をしているのは内緒~報われないと知っているから~

「心美を大事にしたい。好きなんだよ」

「十亜は私を好きなんだと思ってたんだけどな」

「あのなぁ、恋人の前でそういうことを言うな。誤解されるだろ」

 相楽くんが頬杖をつきつつ顔をしかめたのを見て、麗香さんはおかしそうにウフフと笑う。

「そっか。じゃあ今までみたいに気軽に十亜に泣きついたりできないんだね」

「そうだ。俺は真剣に心美と付き合ってるから。麗香もシンガポールで幸せになれ」

 彼は張り詰めた空気をまとって真剣に麗香さんにそう告げた。

「わかった。十亜、今までありがとう。心美ちゃん、十亜は本当にいい男なの。ずっと仲良くね」

 相楽くんをいい男だと言った彼女に、私は笑みをたたえて小さくうなずいた。
 素の性格を知ってからは、彼をずっとワルい男だと思っていたけれど、本当のところはどうなのかわからなくなっている。
 少なくとも、麗香さんに対しては誠実だったに違いないから。


「麗香、元気でな」

「うん。十亜も元気で」

 三人揃ってカフェを出たところで、私と相楽くんは並んで麗香さんに手を振って見送った。
 麗香さんと会うのは生涯でこれが最後だと、彼は心のどこかで悟ったのかもしれない。
 隣からそっとうかがった表情がとても寂し気で、彼の気持ちを考えたら私まで胸の中がチクチクと痛くなった。

 私たちはしばらく無言で歩き、地上に出るために小さなエレベーターに乗り込んだ。
 
「巻き込んで悪かった。来てくれてありがとな」

 ゆっくりとエレベーターが上昇していく中で、彼の紡ぐ言葉がやけに健気だから、私のほうがしんみりしてしまう。