恋をしているのは内緒~報われないと知っているから~

 行動のすべてを読まれているみたいで悔しい。けれどここで私がたとえ拒んでも、彼はなんとか説き伏せて彼女の前に連れていくに違いない。
 しばし黙り込んで考えてみたものの、私はどうせ抗えないと観念した。

「明日、どこに行けばいいの?」

「場所はメッセージで連絡する。伊月、ありがとな」

 真剣みを含んだ表情で最後にやさしくお礼を言われたら、なにも言えなくなった。
 元々顔が整っているのもあり、私が好きだった爽やか王子様キャラの相楽くんが時折垣間見えるからタチが悪い。

 家に戻ってしばらくぼうっとしていると、相楽くんからメッセージが届いた。
 明日の十九時に、ターミナル駅にあるカフェまで来てほしいという文章と、私が迷わないように店の地図まで添付されている。


 翌日の土曜日、私は買ったばかりのグリーンのワンピースに袖を通して出かける準備をした。
 この日のために用意した服ではないけれど、外は暑いしノースリーブでオシャレだから今日着ていくにはちょうどいい。
 大ぶりのルーフピアスをあしらい、メイクはいつもより大人っぽくなるように心がけた。
 麗香さんが二歳年上だということを、私は気づかないうちに意識してしまっている。
 どうせ私は今日一日だけの偽の恋人なのだから、対抗心を抱いても仕方がないのに。

 相楽くんと事前に交わした打ち合わせは、私と彼は一ヶ月前から付き合っているということのみだった。
 あとは彼が適当に話すから、私は隣で大人しくうなずいていればいいらしい。
 だとしても、ウソをついて人を騙すというのはやはり気が重い。

 電車に乗ってターミナル駅に着き、地下街にある待ち合わせのカフェに足を踏み入れる。
 店内のBGMにはジャズが流れ、とても落ち着いた雰囲気のお店だ。
 先に到着していた相楽くんが振り向き、私に気づいて右手を上げた。彼の向かい側には、あの日目にした髪の長い女性がちょこんと座っている。
 オフホワイトのフレンチスリーブのトップスを着た彼女が黒髪をそっと耳にかける姿は、以前見たときよりもさらに大人っぽく感じた。