「この先に隠れ家的な店がある。そこなら静かだし、会社の人間にも会わないだろう」
駅とは反対方向にそんな店があったなんて知らなかった。しばらく静かな通りをふたりで歩く。
すると相楽くんは「ここ」と告げて、和食ダイニングのお店の扉を開けて入っていった。
店内は全席個室になっているので、万が一会社の同僚がやってきたとしてもこの店なら見つからない。
別にコソコソする必要はないのだけれど、後日あれこれ詮索されると面倒だから、できれば同僚には見られたくないと私も思う。
「手打ちの十割蕎麦があるんだよ。それがうまいの。せっかくだから食っとけば?」
私がコクリとうなずくと、相楽くんはビールとお蕎麦をふたり分注文した。
彼はそのあともメニュー表に視線を落としつつ、イカの刺身も絶品だとか指で示しながらつぶやいていたけれど、私は黙ったままぼうっとその様子を眺めていた。
これがもしデートなら、私ももっと会話を盛り上げる努力をするだろう。
だけどこれはデートではないのだ。勘違いするなと自分にしっかりと言い聞かせた。
「ところで頼みってなに?」
先にビールで乾杯し、あとからやってきたお蕎麦に箸をつけたところで今日の本題を相楽くんに尋ねた。
結局追加で注文したイカの刺身を味わっていた彼が、私の言葉を聞いてそっと箸を置く。
「麗香がらみでちょっと……」
「麗香さんって、この前相楽くんが抱きしめてた女の人だよね?」
「ああ。麗香の存在を知ってるのはお前だけだから、伊月にしか頼めないんだよ」
フーッと小さく溜め息を吐きつつビールを口にする相楽くんに対し、私はあわてて首を横に振った。
「待って。私はなにも知らないよ。あの女性と相楽くんがいったいどういう関係なのか、結局聞いていないもの」
麗香さんにはほかに付き合っている恋人がいて、相楽くんは彼氏ではない、という情報を聞いただけだ。
それなのになにもかも伝えているような言い方をされても困る。
駅とは反対方向にそんな店があったなんて知らなかった。しばらく静かな通りをふたりで歩く。
すると相楽くんは「ここ」と告げて、和食ダイニングのお店の扉を開けて入っていった。
店内は全席個室になっているので、万が一会社の同僚がやってきたとしてもこの店なら見つからない。
別にコソコソする必要はないのだけれど、後日あれこれ詮索されると面倒だから、できれば同僚には見られたくないと私も思う。
「手打ちの十割蕎麦があるんだよ。それがうまいの。せっかくだから食っとけば?」
私がコクリとうなずくと、相楽くんはビールとお蕎麦をふたり分注文した。
彼はそのあともメニュー表に視線を落としつつ、イカの刺身も絶品だとか指で示しながらつぶやいていたけれど、私は黙ったままぼうっとその様子を眺めていた。
これがもしデートなら、私ももっと会話を盛り上げる努力をするだろう。
だけどこれはデートではないのだ。勘違いするなと自分にしっかりと言い聞かせた。
「ところで頼みってなに?」
先にビールで乾杯し、あとからやってきたお蕎麦に箸をつけたところで今日の本題を相楽くんに尋ねた。
結局追加で注文したイカの刺身を味わっていた彼が、私の言葉を聞いてそっと箸を置く。
「麗香がらみでちょっと……」
「麗香さんって、この前相楽くんが抱きしめてた女の人だよね?」
「ああ。麗香の存在を知ってるのはお前だけだから、伊月にしか頼めないんだよ」
フーッと小さく溜め息を吐きつつビールを口にする相楽くんに対し、私はあわてて首を横に振った。
「待って。私はなにも知らないよ。あの女性と相楽くんがいったいどういう関係なのか、結局聞いていないもの」
麗香さんにはほかに付き合っている恋人がいて、相楽くんは彼氏ではない、という情報を聞いただけだ。
それなのになにもかも伝えているような言い方をされても困る。



