恋をしているのは内緒~報われないと知っているから~

「すみません。……相楽くん、ごめんね」
 
 浦田さんに謝りつつ、相楽くんにも頭を下げると、彼は最高に爽やかな笑みを浮かべて首を小さく横に振った。

「それより伊月、どこか具合が悪いんじゃないか?」

「そうね。心美ちゃんの不機嫌な顔なんて初めて見たもん。体調不良なの? 大丈夫?」

 ふたりが私のデスクのそばまでやってきて、顔色をうかがってくる。
 彼が私にしか見えない角度でニヤリと意味深な笑みをたたえた。
 それはほんの一瞬だったけれど、あれは昨夜何度も目にしたワルいほうの相楽くんだ。

「体調は問題ないです。……相楽くんもありがとう。大丈夫、心配いらないよ」

 私は彼としっかり目を合わせ、最後のひとことだけわざと語気を強めた。
 昨夜の件で心配をする必要はないという意味を込めたのだけれど、今ので伝わっただろうか。

 相楽くんが広報部の人たちにあいさつをしてオフィスを出ていった。自分の部署である営業部に戻ったようだ。
 フーッと溜め息を吐きだしたあと、私はトイレに行こうとしてそっと席を外した。
 あんなふうに瞼の腫れを指摘されたら気になってしまう。家で鏡を見たときにはそこまで目立ってはいなかったはずだけれど。
 
 メイクでごまかせるだろうかと考えながらオフィスを出た瞬間、驚いて心臓が止まりそうになった。通路の壁を背にして、相楽くんが立っていたからだ。

「わっ! 営業部に戻ったんじゃなかったの?」

「戻るよ。でもお前にちょっと確認しときたくて」

 入社してから今まで一分(いちぶ)の隙も見せずに完璧に王子様キャラを演じていた彼が、周りに誰もいないとはいえ堂々と素の自分を出していることに仰天して、私は彼の腕を引っ張って通路の奥に移動した。
 広報部の入口付近で話し続けるのは、誰かに聞かれる恐れがあるから危険だ。それくらい彼もわかるだろうに。