恋をしているのは内緒~報われないと知っているから~

「バカにはしてねぇよ。悪かった。お前には刺激が強すぎたみたいだな。涙目になるなよ」

 相楽くんはあきれた口調でフッと笑い、私の目尻に滲んだ涙を親指でそっと拭った。
 いきなりキスをされて怒らなければいけない場面なのに、そんなふうにやさしくされると強く出られなくなるから困る。

「私、明日から石上派になる」

「は? 無理だろ。ていうか、やっぱり俺派だったんだな」

 そうだよ。誰にも打ち明けてはいなかったけれど、私はずっと片思いをしてきたのだ。
 いつも爽やかでやさしくてキラキラしている、王子様みたいな相楽くんに。
 私が好きだった相楽くんは、女性の扱いに慣れた百戦錬磨の遊び人なんかじゃない。 
 うじうじとそんなことを考えてうつむいていたら、彼がポケットにしまっていたスマホが小さく着信を告げた。

「俺、行くわ。じゃあな、また明日」

 相楽くんはスマホに届いたメッセージを確認したあと、即座に椅子から立ち上がって支払いを済ませ、ポンポンと私の頭を撫でて店を出ていった。
 そういえば彼はこのあと予定があると言っていたなと思い出す。
 なんとなくだが、同性の友人と会うとは思えない。女性から連絡がきて、今から合流するのだろうと勘が働いた。

 今夜この店に来たのは間違いだったのかもしれない。
 美穂からキャンセルの連絡を受け取った時点で帰宅を決めていれば、素の相楽くんを知ってこんなにもショックを受けなくて済んだのだ。

 でも……そうしたら私はこの先ずっと会社で偽の相楽くんに騙され続けることになる。
 だから今夜、彼の本性を知れてよかったのだとポジティブに受け止めようとしたが、ただの同僚という立場の私は、会社での爽やかな一面しか知らないほうが幸せだったとも言える。

 あれこれ考えても結局胸の中にモヤモヤとしたものが残ってしまい、小さく溜め息を吐きながら目の前のカマンベールチーズを口に運んだ。
 とろりと濃厚な味がしてとてもおいしいのに、お酒もお料理も今夜は純粋に楽しめない。
 私はモヒートを最後まで飲み干すと、支払いを済ませて店を出た。