恋をしているのは内緒~報われないと知っているから~

「なんだよ、足りない? もっと深いキスが欲しいのか?」

「え?! そんなこと考えてない!」

「あっそ。顔が真っ赤でかわいいから、してやってもよかったのに」

 彼の言葉を聞いた瞬間、両手で自分の頬を覆い隠した。恥ずかしさと混乱から、じわりと目尻に涙がにじむ。
 私が好きだった相楽くんを返してほしい。そんな子供じみた発言をしそうになってしまう。
 
「口止め料もキスでいいか?」

「なに言ってるの?」

「まぁ、お前は俺の正体を会社でペラペラ喋ったりしないと思うけど」

 口止め料とはなにについてなのか、一瞬わからなかったが今の発言で理解できた。
 私の前で動揺することなく堂々と素の自分を見せているものの、彼は私が会社の同僚にバラさないかと少しは心配したのだろう。
『知られた相手が口の硬そうなお前でよかった』とも言っていたし、彼はこの先もずっと会社では爽やかキャラを演じ続けるようだ。

「私のこと、そんなに信用していいの? 大げさに尾ひれを付けて喋りまくるかもよ?」

 無言になった彼が気になって表情をうかがおうと横を向いたら、突然後頭部を引き寄せられて再びキスをされた。
 今度はふわりと触れあう程度ではなく、彼は唇を強く押し付けてきて、舌で私の唇をチロリと舐めた。
 驚いて抵抗するのが一瞬遅れたものの、私はあわてて両手で彼の胸を押して身体を離す。

「なんでこんなことするの。やめてよ!」

 気がつくと熱を孕んだ瞳で射貫かれていて、私は身じろぐこともできない。
 彼の圧倒的な色気の前では、私はこんなにも無力なのかと思わされる。

「今のは口止め料が欲しいっていう催促じゃなかったのか?」

「違うよ! バカにしないで」

 決して挑発したわけではない。同期の同僚として純粋に私を信用してくれたのならうれしいけれど、コイツならあとからどうにでも丸め込めると簡単に考えているのが透けて見えたから、私としてはちょっと意地悪な発言をしただけだった。
 なのにそれを“キスの催促”と捉えるだなんて、信じられない。