恋をしているのは内緒~報われないと知っているから~

 会社での爽やかな相楽くんに恋をしていたのに、と正直には言えなかった。
 目の前にいる本来の彼が私の純粋な恋心を真剣に受け止めてくれる気がしない。きっと笑い飛ばされるに決まっている。
 密かに片思いをしていて、それが叶わないどころか相手がいきなり消滅してしまうだなんて、急展開すぎて気持ちがついていかない。
 
「お前ってさ、かわいいんだな。捨てられた仔犬みたいにしょんぼりして」

「は?!」

 仔犬ってなんなの、と言い返そうとして左隣に顔を向けると、相楽くんの右手が私の肩に回ってきて、気がついたら至近距離で見つめ合う形になっていた。
 バーというこの場所が甘い雰囲気を作り出し、彼の色気をさらに増大させている。
 驚いて息を止めていたら彼がスーッと顔を近づけてきて、唇と唇が触れ合った。

 キスをされたのだと気づいたときにはもう、彼は私の肩から手を放してウイスキーのグラスをかたむけていた。
 なぜそんな行動をしたのか、私は頭が混乱するばかりでわけがわからない。

「今の……なに?」

 ドキドキと早鐘を打つ胸を押さえながらも、おそるおそる隣で微笑む相楽くんに尋ねてみた。

「ん? ショックを受けたみたいだから、ちょっとしたお詫び」

「お、お詫びになってないでしょ!」

 いきなり唇を奪っておいて、理由がお詫びだなんて、いったいどういう了見なのかと少々声が大きくなった。
 アハハと笑い飛ばす相楽くんを見ていると、どんどん悲しい気持ちが湧いてくる。
 私が知っている相楽くんなら絶対にこんなふうにキスしたりしないはずだけれど、おそらく目の前にいる彼は気が向けば誰にでもするのだろう。
 本当はチャラチャラとした軽い人だったのだ。遊びで付き合っている女性がたくさんいるのかもしれないと考えが及んだら、胸がきしむように痛くなった。