五年後。
「葵―、凪と手を繋いでくれる?」
「はぁい! 凪ちゃんおいで」
私の前を歩く息子の葵が、妹の凪のそばまで行って優しく手を繋いだ。
凪はよちよち歩きながら、小さな手で兄の手を握り返している。
微笑ましい後ろ姿に私も自然と笑みが浮かぶ。
すると、隣にいた海斗さんが私の手を取った。
ドキンと胸が鳴る。こうして手を繋ぐのは久しぶりだ。
「海斗さん?」
「少しくらいいいだろう。いつも子供たちに取られるからな」
海斗さんの微笑みに顔が赤くなる。
「ふふ、そうね」
その大きな手を離さないように握り返した。
繋がれた手には、あの時約束した正式な結婚指輪がはめられている。
「あ、じいじー」
葵の声の先には、会長である義父と義母が照れくさそうに手を振って歩いてきた。
私も笑顔で会釈するが、海斗さんは小さく舌打ちをした。
「お袋はともかく、いまだに親父が子供たちに触れるとイラっとするな」
「ふふ、もういいでしょう。許してあげて」
海斗さんを優しくたしなめる。
会長と海斗さんは一応和解したが、そのわだかまりは完全には解けていないらしい。
似た者同士だから、時間はかかるのかな。
でも、なんだかんだ上手くやっているのだから、素直になれていないだけな気がするけどね。
私は今幸せだ。
こうして海斗さんと子供たちのいる生活。
一度は諦めた未来だった。それが、今当然のようにここにある。それを自覚するたびに、泣きそうになるのだ。
「ずっとずっと、こうしていたい」
「あぁ、ずっとこうしていられるよ」
私の呟きに海斗さんは自信たっぷりに微笑んで、そっとキスをしてくれた。
END



