どこだろう、ここ……。
目を覚ますと、そこには知らない天井が見えていた。
天井が高くて豪華な飾りが見える。
ゆっくり体を起こすと、頭がズキッと痛んだ。

「いたたた……」

昨日、飲み過ぎたな。
あのイケメン男性と話をしていて、タクシーに乗ろうと言われて……、それからどうしたっけ?
そこからの記憶が曖昧だった。
周りを見渡し、さらに困惑する。
自分が今いるのは、自宅マンションのあのシングルベッドなんかではなくキングサイズはあるだろう広々としたフカフカのベッド。
目の前の空いている扉から先に見えるのはソファーと埋め込み式テレビが備え付けてある、豪華な広いリビング。

「どこ、ここ……」

ベッドから下りようとしてハッと気が付いた。
私、バスローブ着ている!?
下着は着ていたが、白いバスローブが少しはだけており、慌てて整える。
え、服は? 服はどこ!
キョロキョロと見渡すと、ベッド脇のクローゼットにクリーニングタグがついたままかけられていた。
クローゼットには私の服だけがかけてある。

「クリーニング……? あっ……」

ここでようやく、自分がしでかしたことを思いだした。
昨日、バーであったイケメンがタクシーに乗せようとした時に気持ち悪くなって……。

「そうだ、盛大に吐いちゃったんだ……」

私は青ざめてがっくりとうな垂れた。
しまった、やらかしてしまった……。
今まで吐くほど飲んだことはなかったが、昨日は半分やけ酒だった。悪酔いしてしまったのかもしれない。
それから男性に近くのホテルに連れて行ってもらい、服を脱がせられてシャワーで洗ってもらった気がする……。
そこから記憶がほぼない。
私は顔をあげて再度周囲を見渡した。
ここはホテルということか。
リビングへ行くと、ラップにかけられたサンドイッチやフルーツ、飲み物など朝食と思われるものがテーブルに置いてあった。
そして部屋のカードキー。
2001、ホテルシエルトリトンと書いてある。

「シエルトリトンって、超高級ホテルじゃない!」

日本でも有数の高級ホテルで、海外の来賓や政治家などが多数利用するという有名ホテルだ。
そんなホテルの20階に泊まったってこと?
部屋も私が今まで泊まったことがあるような部屋とは段違いに豪華で広い。
窓の外を見ると周辺のビルが低く見える位に高く、遠くの景色まで見えるほどとても素晴らしかった。
ここはただのシングルルームなどではないことは、この部屋を見ればわかる。

「まさか、ここスウィートルームとかじゃないでしょうね……。ん?」

カードキーの横には小さな白いカードが置いてあった。
そこには綺麗な字で「必ずこの番号に連絡するように」と書いてある。
この番号って……。
裏を見て絶句した。
白いカードだと思ったものは、名刺だったのだ。
名刺にはこう書いてあった。

「株式会社 神野フーズ 代表取締役社長 神野海斗」

その名前に青くなる。

「神野って……、あの!?」

神野フーズといえば、食品メーカーで業界最大手。
海外にも知られており、知らない人はいない程だ。
そこの代表取締役社長!?
昨日の人が!?

「いやいや、若かったじゃん! まだ30代そこそこだったよ!? そんな人が社長なわけがない……」

嘘だ嘘だとブツブツと独り言を言いながら鞄を探し出し、スマホを取り出して検索をかける。
するとある記事が目に飛び込んできた。

「昨年春に先代が倒れ、急きょ長男である海斗氏が代表取締役に就任。先代は会長職に就くが事実上、経営は海斗氏が行うことになり先代は相談役になると思われる」

スクロールした先には……。

「嘘でしょう……」

そこには昨日バーで会ったあの男性の写真が載っていた。