要さんが苦笑いをするのが横目に見えた。

「よく覚えているな」
「あなたの秘書ですので」
「面倒だ。猪川家のお身内がずらりのパーティーは」
「会議がなくなったと後々猪川家にバレる方が面倒くさくはありませんか?」

違いない、と要さんがつぶやく。彼も行かなければならないのはわかっているのだろう。

「婚約者の麻里佳さんは、要さんが急遽駆けつけてきたら喜ぶに違いありません」

要さんの婚約者の名前を出すと、彼は考えるような様子だった。それから、私の顔を覗き込んでくる。

「喜ぶものか? そういうサプライズは」
「ええ。そういうものです」

本当のところどうかはわからないが、私の記憶にある猪川麻里佳さんならきっと喜ぶだろう。しとやかなで百合の花のような私と同い年のご令嬢。

「本社でのお仕事が終わりましたら、パーティー会場のホテルサワクラまでお送りします。猪川社長の秘書には私から連絡を入れますので、要さんは麻里佳さんに直接ご連絡を」
「俺が直接連絡すれば、彼女が喜ぶってことか」
「わかっていらっしゃるじゃないですか」

私は微笑み、港区芝の本社まで車を走らせるのだった。