要さんのマンションに入ったのはものすごく久しぶりだった。
私が秘書をやっていた時代に、彼を送ってきたことがある。入室したのは仕事の話があったからだ。

「これは……」

入ってみて驚いた。リビングにはベビーベッドが置かれている。電動式の揺れるものだ。

「オムツなんかはこっちの棚に置くといい。居間で育児をするとき、近くにあると便利だろう。寝室には、別のベビーベッドがある」

チェストも初めて見たものだし、寝室にはもう一台ベッドがあるということ?

「揃えすぎです。要さん」
「全部レンタル品だから気にするな。調べたらベビーバスというのは生後ひと月までしか使わないそうだから、用意していない。それでよかったか?」

要さんは私の様子をうかがうように言う。頷いて、思わず嘆息した。彼が私たち親子にあれこれと手間を惜しまずしてくれることが心苦しい。

「要さん、ありがとうございます」
「都子、……大地に触ってもいいか?」

この瞬間まで、私は大地を要さんに抱き上げることさえさせていなかったと思い至った。父親であり、一緒に住もうと言ってくれているこの人に。
謝るのも溝を感じそうで、私は抱っこ紐から降ろした大地を要さんの腕に抱かせた。