「高垣」

外出直前に要さんが私を呼んだ。

「なんでしょう」
「今度時間を作ってくれるか」
「お急ぎでしたら、お戻りになるのを待っていますが」

今日は遅いと聞いて、私は先に退勤する予定だったからだ。要さんが首を横にふる。

「そうじゃない。今度、一緒に食事でもしながら話さないか」
「……何かお気遣いをさせてしまっているようで」

私は大人ぶって、笑顔を作った。彼より五つも年下の私は、こういうやり方をついしてしまう。

「何も気にしないでください。困ります」
「……そうか」

要さんはわずかに表情を曇らせ、鞄を手に副社長室を出ていった。
怜悧な彼が、私のために躊躇った態度を取るのが歯がゆかった。