年が明けた。正月は埼玉の実家で祖父母と過ごしていたため、要さんのことも仕事のこともあまり考えずにいられた。
我が家は母子家庭で、母も早くに亡くなっている。高校生からは祖父母と暮らし、大学も祖父母宅から都内まで片道一時間半かけて通ったものだ。

仕事始めに合わせてマンションに戻り、例年通り出勤する。

「明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします」
「ああ、おめでとう」

要さんとはかすかなぎこちなさを残してはいるが、問題なく接することができている。年の瀬のあの夜について、お互いに語り合うことはない。必要ないからだ。

私はいつもと同じように仕事をするだけ。
休み中に来ていた郵便物の整理やメールの対応。要さんのスケジュールのチェック。

「午後は社長とご一緒でしたね。私は同行ではないのでよろしくお願いします」
「わかった」

新年初日の要さんはどこか口数が少なく見えた。正月休みの間に、気まずさがいっそう増したのだろうか。そういうことなら少し悲しい。あの夜を忘れるつもりだが、後悔はしていないのだから。