「まあ、社員を不安にさせたのは俺の不明だな。さらに、猪川グループとの件は株主総会でつつかれることは間違いない。俺もまだまだだ」
「何手も先を読んで動く方なのは知っていましたが……」

やはり要さんは強い。私の不安なんか吹き飛んでしまう。

「どうしましょう」

私が口元を押さえると、要さんと大地が一緒に覗き込んでくる。

「なにがだ、都子?」
「惚れ直してしまいます」

要さんがぶわっと赤面した。この反応は珍しいので、私もまじまじと彼の顔を見つめる。

「なんだ、それ。大歓迎だぞ、惚れ直してくれ」
「格好いいです、要さん。やっぱりあなたは最高の人ですね」

大地を抱いていて、自分からハグができない要さんを、私が両腕で包んだ。

「要さん、大好きです。もっともっと好きになる。あなたのこと」
「競うつもりはないけど、俺も毎日都子への好きが更新されているからな!」

お互い告白し合って笑ってしまった。大地が笑うパパとママをじいっと見ていた。
幸せはこんな形なのだと感じる。
要さんに片思いをしていた頃、私は彼とのひとときを忘れないようにしようと思っていた。日々の他愛のない会話、ともに見た景色、夜の静寂(しじま)。それらを心にストックしておこうと思っていた。
それが今思い起こされる。寂しい思い出ではなく、懐かしく甘い思い出として。
よかった。あの日々をこれからも更新していけるのだ。
何度でも何度でも要さんに恋をして、想いを新たにして。次の思い出を積み重ねていけるのだ。