肌寒いと感じたのは羽毛布団から素肌の肩が出ていたからだ。
ぶるりと身を震わせ、寝ぼけた頭で布団を首までずり上げる。そこで気がついた。

ここは私の部屋ではない。白い天井もふかふかのベッドも、シャンデリア型の照明も、私の知る場所ではない。
昨晩のことを覚えていない、とは言えない。
私はゆるゆると首をめぐらせ、隣に眠る人の姿を確認した。

岩切要(いわきりかなめ)、私のボスだ。副社長をしている彼の秘書になって三年が経つ。
一夜の過ちのつもりではなかった。彼に請われ、私も望んで抱かれた。しかし、結果て彼にとって昨晩は過ちに分類されるのだろう。

そっと布団から出て、毛足の長いカーペットに素足のつま先をつけた。知らない感触に、改めて非日常の不安が襲ってきた。彼が目覚める前にすべてを終えよう。
シャワーは浴びずに服を身に着ける。昨晩、シャワーを浴びたときにたたんで椅子に置いておいたものだ。
バスとは別にあるパウダールームで髪をとかし、ほとんど落ちているメイクは眉を直す程度にした。寝室に戻り一人掛けのソファに置いておいた鞄を手にすると、ベッドのふくらみが動いた。

要さんが目覚める。
ちょうどいい。寝ている間に出ていくのではあまりに不義理だと思い始めていたところだ。

「高垣(たかがき)」

要さんが私を呼ぶ。天井見ている彼は、足元に私がいるのが見えないのだろう。まだ寝ぼけているかもしれない。

「はい、ここにいます」

なるべく静かな声で答えた。
ベッドサイドに歩み寄ると、布団からにゅっと腕が伸び、私の手首をつかんだ。目が合う。要さんの目は綺麗なブラウンだ。
ダークブラウンの髪より少し色素の薄いブラウンの目は印象的で、いつも私を惹きつける。彼の美貌をいっそう引き立てているのもこの瞳だと思う。

「高垣、ゆうべのことは……」