平伏する勢いで頭を下げると、諦めたような声音で、もういいよ、という言葉が返ってきた。



「……それより、ほら」

「?……え、なんでハンカチ?いいよ、制服についたやつは払っていくから」

「じゃなくて。髪、ぬれてるでしょ」



ハンカチが握られた手から、ふと胸ほどまである自分の黒髪に目を落とせば、確かにしっとりと湿っていた。



「廊下に水滴垂らされたら困る」

「や、でも、そんな、使えない」

「じゃあハンカチ持ってるの?」

「………、」



スカートのポケットを上からぽんぽん叩いてみても、そこにいつもある膨らみはない。つまり、忘れたということ。

たぶん、焦ってたからリビングあたりに置き忘れてきたんだろうなあ……。


ぽたぽた前髪と後ろ髪から滴り落ちる水滴と、のちのちすごく嫌そうな顔をするであろう都裄くんの顔を天秤にかけて。

後者のほうに、がちゃんと天秤が傾いた。


「ありがたく、使わせていただきます……っ」

「ん」