体を揺さぶられる感覚で、私は飛び起きた。
隣を見ると、先程出会った男が、私を心配そうな顔で見つめていた。

「…夢でも見てた?」

「……あ、も、もしかして、寝言言ってました、?」

「…かなり。」

私は、急に羞恥心に苛まれた。
私の命の恩人と言っても過言では無い人の目の前で寝落ちして、しかも寝言まで言うなんて。

「ごめんなさい。」

私はその言葉しか思いつかなかった。

「気にすんな。」

前方を見ると、この雨で渋滞になっていた。

「あれ、私、シート倒したっけ、」

私は、独り言のように小さく呟いた。

「お前が寝だしたから俺が倒した。嫌なら自分で直せ。」

胸の奥がズキンと疼いた。
まるで、あの日元彼に出会った日のように。

__いや、違う日、?




するとようやく、前方の車の赤いランプが消え、少しだけ進んだ。

「お前、名前は。」

男はまたもや口を開いた。

「白鳥、葵凪、です。貴方は、?」

「俺は、グレネ。因みに本名は違う。」

「本名は、ちがう、?」

衝撃的な一言だった。

「俺の職は殺し屋。だからコードネーム作ってそれを名乗ってる。」

殺し屋、。その名の通り、人殺しだ。
やはり、私を殺すつもりなのだろうか。

「でも安心しろ。お前のことは殺さない。これからどうなるかはお前次第だけどな。」

男は妖艶な笑みを浮かべた。

「あの、これからどこへ、?」

私は1番気になる事を質問した。
雨は1層威力を増して、ガラスに勢いよく叩きつけている。

「俺の家に決まってんだろ」

「へ、?」

「お前、追い出されたんだろ?たまたま見てた」

なんとグレネは、私が元彼の部屋から飛びててくるところを見ていたという。

「でも、どうしてそれだけで、」

「は?お前の彼氏か誰か知らねえけど、「もう二度と帰ってくんなwww」って声してたじゃねえか」

「ああ、」



そうか、そうだった。あの時の笑い声。
部屋を出る瞬間、女の笑い声に混じって、そう言っていたような気がする。私が勝手に記憶から消していただけだった。


そうこうしている内に、車は渋滞を抜け、舗装されていない道へ出た。
山道に入ると、雨で柔らかくなった土をタイヤが踏みしめるぐちゃぐちゃとした音が聞こえてくる。

「もう少し。気分悪くないか?」

「大丈夫です、」

たまに見えるグレネの横顔は、とても美しかった。
何故だろうか、心臓がドクドクと鐘を打つように早く動いている。



この雨が止む頃には、治まっているだろうか。