「見つけたよ、子猫ちゃん」

わたしたちしか歩いてなかったはずの渡り廊下で、突然、背後から声がしたの。

“子猫?”と首をかしげながら振り向くと、そこにはあの男がいた。腕をぴんと前に伸ばして、わたしを指で差している。

「……キラオ先輩」

さっきの出来事が頭の中をよぎる。

今頃になって言い返しに来たのか、とビクビクしていたら……。

「見……」

キラオ先輩はズボンのポケットに手を突っ込み、

「つ……」

もう片方の手で前髪をさらりとなびかせ、

「け……」

つぶやきながら、一歩、一歩、とゆっくり近づいてくる。

「た……」

リズムをとるような歩調。

「よ……」

真ん前まで来た彼は、わたしの手首をためらうことなく握ってきた。

「……え」

理解できない行動にきょとんとしてしまう。

そんなわたしを面白がるように、キラオ先輩はクスッと笑みをこぼし、そして……。

「子猫ちゃん」

目を合わせたまま、掴んだ手の甲にそっと顔を近づける。