おそらく一つは、この刻印である。
 焼け跡も薄くなって、もう本当に微かな印しか残っていないが、公務を行う聖女に共通するひとつがこれだ。

 そして、思い当たるのがもうひとつ、口にしていた物である。

 クア教国の聖女は教会で寝起きし暮らしている。
 食事はすべて管理され、許可されたものでないと食べられない決まりになっている。

 シャノンが思い浮かべたのは、起床後すぐに飲まされていた薄緑色の透明な液体。一日の始まりである「暁光の祈祷」をする前に必ず飲まされていたものである。
 あの頃は特にそれが何なのかも興味はなく、与えられたから飲んでいた。が、あれを飲まされていたのは聖女だけだったのだ。


「クア教国が月の巡りも穢れだと言うような風習ならば納得だ。癒しの力を最大限に引き出すために成長を止めていたとしても不思議じゃない」
「……」

 離れてみてやっと分かる異常さ。しかし、そうすることで聖女が誕生する国の威厳を保ってきたのだろう。

「それで、お前が気にしていたのは、自分の体も本当に成長するのか、だったな」
「はい」
「お前が教会を追放され見世物小屋にいた期間と、ヴァレンティーノにやってきてからの食事や生活内容を含め、今の健康状態を照らし合わせると……その薬の効力も切れ始めていると考えられる。クロバナの種を食べたことで影響が出ないとも言えないが、現に月の巡りが始まったんだ。しっかり体は成長している」

 それを聞いてシャノンはほっとした。
 薄っぺらな体が嫌だというわけではないけれど、成長しないことが、いつまでも自分の時間を止められているような気がして恐ろしかったから。

 少しずつでも前に進んでいるのだと分かって嬉しくなった。

 徐々に体が変化していく戸惑いと、くすぐったい喜びに震えるシャノンは、誰がどう見ても年頃の女の子そのものだった。


(……あ、でも今日は三階でみんなとティータイムがあるんだった。お腹もすごく痛いわけじゃないし、参加したいな)

 ちなみに、月の巡りは会って数秒でルロウに見破られ、シャノンの顔色の悪さに顔を顰めるやいなや、「寝てろ」と有無を言わさず寝台に押し込まれた。