「食事もままならないなら、また、しばらく口移しをしてやろうか」

「……口移し? 誰がです?」

「おれが、おまえに」

「ルロウが、わたしに……。な、何を言っているんですかっ」

「なぜ、照れているんだ。このひと月そうしていただろう。……嗚呼、おまえは意識を失っていたな」


 大した問題ではないように、ルロウは素知らぬ顔で淡々と告げている。しかしシャノンにはかなり衝撃な内容だったため、口をぱくぱくと動かして顔を赤くさせた。
 その変化に、ルロウは首を傾げる。


「おまえ、そのような顔もできるようになったのか」


 この一ヶ月、シャノンの中で「記憶返り」が起こっていたことは、ルロウとダリアン、そして双子だけが把握していた。

 刻印もより薄くなっており、完全ではなくても効力がどんどん失われていっているんだろう。
 最初の頃に比べてシャノンが見違えるくらい感情的になったのを見れば、やっぱりそれが一番納得がいく理由だと、シャノンの思っている。

 ルロウも、それは知っているのだ。
 それなのに意外そうな顔をするので、シャノンは自分がどんな顔をしているのかとても気になってしまった。

「わたし、一体どんな顔をして……?」
「雌の顔」
「め……!?」

 とんでもない発言を落としたルロウは、そのままスプーンを持って部屋からいなくなる。替えのものを持ってきてくれているのだろうが、それ自体今までならありえないことだった。