「だめだ。ぜんぜん飲み込んでくれない」
「シャノン、ちょっとでも飲み込まないと元気になれないよ〜」

 しかし、どんなにスプーンを口元に近づけても、中に流し込もうとしても、シャノンは咳き込んで吐き出してしまった。

「……まずいな」

 その様子を見ていたダリアンが眉を顰めて言った。
 おそらく峠と呼ばれるところまできているのだろう。ここを乗り越えなければシャノンの体は衰弱していくばかりで回復は望めない。

 そうだと分かっているからこそ、ハオは懸命に飲み込ませようとするが、何度やっても失敗していた。

「貸せ」
「あっ、ちょっとフェイロウ」

 見かねた声のルロウは、ハオの手から容器ごと取り上げると、ずかずかとシャノンの寝台に乗り込んだ。
 そして、液体食を自分の口に含ませると、そっと後頭部に手を回して頭を起こした。

「――」

 ルロウは親指を器用に使ってシャノンの口をこじ開け、自分の口から直接液体食を流し込んだ。
 それは容器が空になるまで続けられ、傍から見ると献身的にしか見えないルロウの挙動に、双子とダリアンは唖然としていた。

「……けほっ、けほ」
「……」

 しまいには咳き込むシャノンの口端から滴る液体食を自分の袖で拭ってやり、容器をハオに返すとまた観察体勢に入ってしまった。

 こうして、決して多くを語らないルロウの奇行は、シャノンの意識が戻るその日まで続けられることになったのだった。